2023.6.4.Sun
今日のおじさん語録
「モデルの瞳に感動したら瞳から描け、首筋に感動したら首筋から描くのだ。/藤田嗣治」

【不完全お蔵入り版】
いであつし&綿谷寛
懲りないおじさんたちの
『ナウのれん』大反省会!

撮影・文/山下英介

この春、雑誌Beginで長きにわたって連載されていた名物コラム『ナウのれん』が、惜しまれつつ大団円を迎えた。はっきり言って、これはファッション雑誌、というか雑誌文化全体にとって大きな喪失だと思う! コラムの役割って、部数や広告といった数字で測れないからこそ、そこには雑誌のもつ核や思想が表現されているんだ。・・・まあ、そんなマジメな嘆きはこの連載には似合わない。今日は長年ぼくたちを楽しませてくれたコラムニストのいであつしさんとイラストレーターの綿谷寛さんを「ぼくのおじさん」のアトリエにお招きして、慰労会&反省会を開催させてもらった。無礼講なもんで、言いすぎちゃったらごめんなさい!  ・・・なんて意気揚々と始まったこの対談は、皮肉な結末を迎えるのだった!

いでわたコンビの誕生秘話

いであつし とりあえず乾杯しよっか。

一同 15年間お疲れ様です!

綿谷寛 ああ、これはそのまんまのほうが美味いね。

せっかくの慰労会なのにコンビニの安酒とおつまみですみません(笑)。しかしBeginでふたりの連載が始まったのって、なんと1994年なんですね。もうちょっとで30周年じゃないですか! ふたりの連載がない(※)Beginなんて、ぼくには考えられませんよぉ! 
※この対談は、ふたりの新連載が決定する以前の2023年3月29日に収録しました。

綿谷 まあ時代だよね。

ふたりのコンビはどういう経緯で始まったんですか?

いで Beginの連載が始まる1年くらい前、MEN’S CLUBの単発ルポで初めて綿さんと会ったんだよね。高円寺と自由が丘をまわったんだけど、そのとき俺、ラブラドール・レトリーバーくらいでしか売ってなかったラルフのビッグチノにビッグポロを合わせててさ。この裾を出すか出さないか、ボタンを2個外すか外さないかですごい悩んでたのよ。それを取材中ずっと画伯に言ってたら、イラストに描かれちゃったんだよね。

綿谷 それからいでくんが『Begin』に売り込んだの?

いで 当時は俺、TVブロスとかゴルフトゥデイで連載してたのよ。

綿谷 ゴルフやらないのに『ゴルフの人』って単行本出してたよね。

いで そうそう。ゴルフトゥデイの担当編集者が俺のことすごく気に入ってくれててさ。ちなみにそのとき挿絵を描いてくれたのが、笹塚ボウルの上に住んでいた頃のリリー・フランキーだった。そんなときにBeginがマルセル・ラサンスのフィッシュテールパーカとかを紹介してるのを見て、この雑誌なかなかわかってんじゃんって。で、その担当さんにBeginの編集者を紹介してもらったの。そしたら彼女はサブカル好きで俺のブロスの連載も読んでくれてたんで話が早かった。「ファッションでバカなことをやりたい」という俺の企画を形にしてくれたんだよ。

綿谷 『モードの鼻毛』ってタイトルが生まれたのはさ・・・

プル・プル・プル・・・(着信音)

いで 山ちゃん(編集人)、ちょっと話いいかな?

いや〜最高の対談ができましたよ! 話題になること間違いなし! 公開が待ち遠しいな〜。

いで いや、あのとき俺たち飲みすぎちゃってさ、ヤバいことばっか言ってたでしょ。

もちろんです! ●●に怒られた話とか、●●に謝罪文を書いた話とか、●●を出禁になった話とか、最高だったな〜。

いで 実はそのあたりが本当にヤバくてさ、やっぱ書かないでもらえる?

え〜! 2時間ほとんどそういう話だったし、そういうの書かなかったら書くところなんてほとんど残ってないじゃないですか(笑)!

いで いや、最近色々と厳しいご時世じゃん。こないだも色々問題があってさ・・・。

そんな問題になるようなこと、言ってるかなあ。というか、今までさんざん好き放題やってきた人からこんなこと言われるとは思わなかったですよ! 

いで いや〜、申し訳ない。

この根性なし! クソオヤジ!! フントニモー!!! 

・・・というわけで、なんと今回の対談はお蔵入りになってしまった! 当たり前だが今回の対談には差別発言や誹謗中傷、セクハラなどの類は全く含まれていない。そしてとてつもなく面白い! ・・・まあ、ちょっとは怒る人もいるかもしれないけど、誰でもふたりのことや、ふたりを取り巻くファッション業界のことが大好きになる内容だったと思っている。もしメディア関係者ではない方に読んでもらったら、きっと「え、こんなことも今は書いちゃダメなの?」と拍子抜けするかもね。

ただ、ふとあたりを見まわしてみると、ファッションメディア界隈における表現規制(主に自主規制)は、年々厳しくなるばかり。ちょっとでも波風が起きそうなことには徹底的に触れようとしない媒体ばかりで、もはや笑える風刺やパロディも、ちょっとした批判的意見表明も一切許されない世界なのだった。別に無理して何かに反抗する必要もないけど、遠慮と忖度の塊みたいなメディアに載ってる商品なんて、居酒屋で最後に残った冷たい唐揚げみたいなものじゃん! 

そんな状況下で長年戦ってきたお二方による、笑える対談ですらこういう結末になるという、なんとも皮肉な事実。これは期せずして、ファッションメディアのタコ壷化を象徴するような出来事だったのかもしれない!?

ただし! 誤解のないように言っておきたいのは、今回いであつしさんと綿谷寛さんは、「ぼくのおじさん」のためにノーギャラで出演してくださっているということ。編集人は〝問題ナシ〟と判断したが、発言が断片的に切り取られがちなWeb媒体でのインタビューは、やはりそれなりのリスクはあるので、この決断は賢明なのかもしれないね。

しかしもちろん、非常に残念ではある・・・。だってさ、本当に、本当に面白かったんだから!

というわけで今回の教訓! 

酒を飲みながらの
インタビューには気をつけよう!

いであつし

1961年静岡県生まれ。中学2年生の頃に『MADE IN U.S.A Catalogue』を立ち読みして以来のアメカジ好き。パルコや西武などの広告を手がけるコピーライターや、POPEYEのエディターを経て、1980年代後半からコラムニスト〝いであつし〟業をスタートする。現在、MOJITOの山下裕文さんとのコラボレートによる『文豪ジャケット』がBegin Marketで予約受付中!

綿谷寛

1957年東京都生まれ。MEN’S CLUBでファッションに目覚め、セツ・モードセミナーに入所。イラストレーターの穂積和夫さんから指導を受け、1970年代後半からイラストレーターとしての活動を開始。〝マジタッチ〟と〝バカタッチ〟を自在に使い分け、40年以上にわたりほぼ全てのメンズファッション雑誌でイラストを描いてきた。Begin読者には〝バカタッチ〟で知られるが、〝マジタッチ〟においてはサザンオールスターズのジャケット画を描いちゃうくらいすごい人!

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