2024.11.7.Thu
今日のおじさん語録
「人間は一人では生きることも死ぬこともできない哀れな動物、と私は思う。/高峰秀子」
特集/ぼくのおじさん物語 『スペイン』 2

スペインの
いい味出してる
おじさんたちは
いったい何を
着ているのか?

撮影・文/山下英介

スペイン特集の第二弾は、この国のおじさんたちのファッションチェック! 果たしてスペインには、お洒落なおじさんやクラシックなファッションカルチャーが存在するのだろうか?

スペインならではの
ファッション文化って?

ジェントルマンスタイル発祥の国、イギリス。エスプリという概念を生み出した国、フランス。職人文化と色気あふれるファッションの国、イタリア。それに対して、スペインがメンズファッションの分野で語られることはかなり少ない。そこで「ぼくのおじさん」は、スペインの首都であるマドリードを中心に、この国のリアルなおじさんたちの装いを調査してみた!

つっかけがわりに履いているエスパドリーユがなんともいい味出しているおじさん。「ぼくのおじさん」のオンラインストアでは、彼に教えてもらったエスパを販売、あっという間に完売した。
ポロシャツは圧倒的にラコステ一強! 
ジーンズはリーバイスより、リーやラングラーを多く見かけた。現地の若者に聞いたところ、「1970年代にめちゃくちゃ流行って、最近それがリバイバルしている」とのこと。
マドリードのおじさんは、基本的にラフなカジュアルがお好み。日差しが強いので派手なアウターも自然に映えるのだ。
いかにもスペインらしいおじさんスタイル。イタリアと違い、ファッションで自己表現しているような男性の姿はほとんど見かけなかった。
短パンの着用率はかなり高い。
6月ということもあり、ジャケットスタイルのおじさん自体がかなりレア!
「ソンブレロ」と呼ばれるパナマハットも、スペインのおじさんスタイルにおける大定番。
タンクトップ姿でも格好よく見えちゃうからちょっと悔しい!?
ミラノあたりにいそうな、業界人風のお洒落なおじさん。
店先で暇そうにタバコを吸っていたアンティーク店の店主。
最近スペインの大都市圏では古着がブームのようで、こういった味のある装いもちらほら見かける。

・・・だが、これが予想通り、なかなかの苦戦を強いられた。大都市であるマドリードは短パンにポロシャツ、Tシャツといったラフなカジュアルが中心で、いい味出してるおじさんたちを見かけることはごく稀。現地の方に聞いたところ、やはりイタリアとは違い、現代の都市部では日常的にジャケットを着るようなカルチャーはほぼ残っていないという。「ぼくのおじさん」好みのお洒落なおじさんたちは、保守的な気風を残した山間部に多いとのことだった。秋冬になると、もうちょっと状況は変わってくるみたいだけど。

蚤の市が開催されるラストロ付近には、上質なアンティークや古着屋さんが軒を連ねる商業施設も。こちらはデザイナーズヴィンテージを扱うショップのマダムだが、ミリタリーシャツにハンティングベストを合わせ、デザイナーズのスニーカーを合わせるセンスには脱帽。この方がマドリードで一番お洒落な人かもしれない!?

スペインならではのシャツ
「グアヤベラ」って何だ?

ただそれでも、イタリアやイギリスとも違う、スペインならではのファッション文化はまだ残っている! その代表格といえるのが、アーネスト・ヘミングウェイもよく着ていた「グアヤベラ」、通称「キューバシャツ」である。リネンや洗いをかけたコットン素材を使い、フロントのプリーツと4つポケットを特徴とするこのオーバーシャツは、日本でも古着屋さんではおなじみかもしれない。

ちょっとヘミングウェイに似た風貌のおじさん。洗いをかけたリネン製の「グアヤベラ」を着ている。
こちらは「グアヤベラ」ではなくて、「サハリアナス」というサファリ系のシャツ。マドリードでは見つけられなかったが、古い紳士洋品店ではこういったシャツが販売されているという。70年代のスペイン映画に出てきそうなおじさんは、蚤の市の洋服商だ。
友達同士で「グアヤベラ」。左側のおじさんはマドリード唯一のミリタリーショップの店主である。白リネンの「グアヤベラ」はかなり透けるから、日本で着るときは注意したほうがいいかも!?
こちらはマドリードいちの高級セレクトショップ「Denis」のウィンドーディスプレー。洗いをかけた「グアヤベラ」とパナマハットの相性は抜群だ。
C. de Hermosilla, 11, Salamanca, 28001 Madrid,

マドリッドが誇る
スペイン王室御用達
シャツ店「BURGOS」

1906年に創業したスペイン最古のシャツメーカー「カリミセリア ブルゴス」
C. de Cedaceros, Centro, 28014 Madrid, 

この「グアヤベラ」は量販店から高級店まで、あらゆる紳士洋品店やセレクトショップが取り扱っているのだが、その中でも最も格式の高い専門店が「BURGOS」というビスポークシャツ店だ。

かつてはパリに本店を構え、ヨーロッパのセレブリティに愛されていた「ブルゴス」。
シャルべを愛用することで知られるお洒落な映画監督ウェス・アンダーソンも、「ブルゴス」のシャツを気に入って映画に登場させたという。これは「ぼくのおじさん」的には大ニュースだ!
老舗の風情溢れる、後期アール・ヌーヴォー様式の店内。
ヨーロッパの名門シャツ店というと「ターンブル&アッサー」や「シャルべ」が知られるけど、「ブルゴス」はドレスシャツだけではなく、「グアヤベラ」に代表されるカジュアルシャツの品揃えも豊富。中央がサファリジャケットの「サハリアナス」だ。
『市民ケーン』などで知られる映画監督オーソン・ウェルズ。
創業以来使われている顧客台帳。
奥に飾られているのは、スペイン国王フェリペ6世のサイン! 決して安くはないが、ドレスシャツのクオリティはフランスやイタリアの一流どころとなんら遜色もない。
こういったスタンドカラーのジャケットもスペインの洋品店でちょくちょく見かけるデザイン。
突然の訪問に関わらず、快くお店を案内してくれた「ブルゴス」の現オーナー、カルメン・アルバレスさん。ぜひ次回、じっくりと取材させてもらいたい!

こちらは1906年に創業し、かつてはパリにもショップを構えていたという王室御用達の超老舗。古くはアーネスト・ヘミングウェイやオーソン・ウェルズ、ケーリー・グラント、パブロ・ピカソetc.といったセレブリティに愛され、近年では映画監督のウェス・アンダーソンもこちらのシャツを気に入って、最新作『アステロイド・シティ』に衣装協力したという名門である。スペインにおける大スターである一流の闘牛士たちも、こぞってこのお店でシャツを仕立てているのだとか。デザインもお洒落でクオリティが高いし、地下の工房で仕立てた高級なビスポークからリーズナブルな既製品まで幅広い選択肢を持っているので、マドリードを旅する際には、絶対にチェックしてほしい。

地下のアトリエでつくられるビスポークシャツは1枚400€ほどするが、既製のグアヤベラなら比較的リーズナブルに手に入る。マドリード旅行の際は、ぜひヘミングウェイも愛したこちらのシャツを買いに行こう!

こちらのオーナーに聞くところによると、「サハリアナス」と呼ばれるサファリジャケットも、スペインの伝統的なジャケットみたいだ。こういうシャツやジャケットに、いわゆるパナマハットをかぶるのが、スペインの伝統的な夏のスタイルなのだろう。よく考えたらキューバもパナマも、もともとはスペインの植民地。つまりこの国の夏ファッションは、まさに植民地文化の残滓なのである。

ものすごく狭くて急な螺旋階段を降りると、そこにはビスポークシャツを仕立てる小さな工房が。かつては巾着袋に注文伝票と生地を入れて、紐で吊るして工房に渡していたという。

スペインだけの
おじさんジャケット
「テバ」発見!

いい味の出しっぷりに、思わず声をかけてしまったマドリードのおじさん。力の抜けた感じが格好いいね!

そんなスペインのファッション文化の意外なる奥深さにドキドキしながら街を歩いていると、ちょくちょく目に付くのが、普通のようでちょっと変わったジャケットを着たおじさんたちの姿である。一見テーラードジャケットみたいだけど、とてもリラックスした仕立てだし、普通ならあるはずのゴージの刻みもなく、袖のつくりはまるでシャツ。かといってシャツジャケットやカバーオールほどラフでもないという絶妙な塩梅だ。う〜ん、これは他の国では見たことないし、すごくいい味出してる。そして何よりぼくも着てみたい! じっくり街ゆくおじさんたちを眺めていると、意外とこのジャケットを着ている人が多いことに気付かされるんだ。

ポケットチーフを挿して、きっちり着こなした姿もまた素敵。
リゾートっぽいパナマハットにもよく似合う。
バルで気軽に過ごすのに、これほどぴったりなジャケットもないよね!?
タイドアップした紳士的な装いが実に凛々しい、人生の大先輩。シャツ袖のふくらみや、フロントボタンの留め方が、なんとも参考になるな〜。

聞けばこの服は「テバ(TEBA)」と呼ばれる、スペインではかなり伝統的なジャケットなのだとか! ・・・さて、実はここからがスペイン特集におけるハイライト。クラシックなファッション文化を愛する「ぼくのおじさん」は、スペインのファッション文化遺産ともいえるこの「テバジャケット」について、徹底的に研究することにした!

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