2024.4.15.Mon
今日のおじさん語録
「白は清浄あらゆる色を彩る。黒は厳粛あらゆる色を深める。/月光荘おじさん(高橋兵蔵)」
赤峰幸生の<br />
暮しっく
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連載/赤峰幸生の 暮しっく

英国紳士
ダグラスさんと語る
フォーマルを
愉しむための暮しっく

撮影・文/山下英介

コロナ禍の反動なのか、最近急に増えてきたパーティや華やかなイベントごと。でも、ぼくたち日本人がいつも困ってしまうのが、どんな格好をして臨むかという問題だ。そこで今回は、赤峰さんにフォーマルの心構えを教えてもらおう! というわけでいつもの「めだか荘」に伺ったところ、そこには衝撃的な光景が・・・!

騎士道のフォーマルと
武士道のフォーマル

赤峰さんが企画した、今回のフォトセッション! 西洋のフォーマルであるタキシードを着た赤峰さんと、東洋のフォーマルである着物を着たダグラス・コルドーさん。どちらも正しく選び装えば、決して真似事にはならない、世界に通用する装いなのだ。ちなみに今回は撮影のために着用して頂いたが、タキシードは本来夜の正装ゆえ、お間違いなきよう。
赤峰さん! そして英国を代表する生地メーカー、FOX BROTHERSのCEOであるダグラス・コルドーさん! ふたりでいったいなにをしているんですか(笑)。

赤峰 いや、今日はフォーマルについて語るというから、ダグラスさんに日本の正装である着物を試してもらおうと思って、私物を引っ張り出してきたんです。

ダグラス 本格的な着物にトライしたのは初めてですが、意外なことに、とても快適な着心地で驚きました。ただ、その着方は難しい。ひとりで着たら絶対にだらしなくなってしまうと思います。

この日ダグラスさんが着用したのは赤峰さんの着物だが、スーツよりも体型の許容範囲が広い服だから、多少体型が違ってもさして違和感はない。ちなみに赤峰さんが着物を誂えているお店は「銀座もとじ」。〝新しい時代の新しい着物店〟をテーマに掲げる男性用着物専門店は、本格的な着物デビューにもぴったりだ。

赤峰 格の高い「角通し」という柄の着物に、お召し(ちりめんのようなシボのある素材)の羽織と袴を合わせたこのスタイルは、略礼服にあたります。いわばダークスーツのようなものですから、普段着てもよいのですが、パーティや結婚式にお呼ばれしたときにも着用できます。私は初詣のときに着ていますね。着物は生地によって格式が細かく分かれていますし、式典には家紋が必要ですから、また奥が深い世界なんですよ。ぼくはお茶の嗜みがあるわけじゃないし、和装に通じているわけでもないけれど、日本人としては、少しはちゃんとした着物を揃えておかないとね。

ダグラス 着物、羽織、そして袴。ひとつの装いの中に様々なテキスタイルがミックスされていて、とてもアメージングですね。

赤峰 羽織はジャケットのようなものですね。これを着ることによって、着こなしの格が高くなる。和装と洋装は考え方が違うから、あまり応用できるものじゃないけれど、着物における黒紋付の袴って、モーニングコートのトラウザースと同じ縞柄でしょう? これは明治時代に政府が礼装を定めたときに、英国のフォーマルを参考にしたからなんだよね。

ダグラス それは興味深いですね。帯の存在はカマーバンドを彷彿させます。

赤峰 ご明察。この袴は「馬乗り袴」といって、馬に乗りやすいようズボンのような二股になっているわけだけど、英国のフォーマルも乗馬から由来した要素は多いですよね。つまり武士道文化と騎士道文化から生まれている。だからこそ、ダグラスさんが着物を着て京都に行こうが、ぼくがタキシードを着てロンドンに行こうが、全く違和感はない。でしょ? 

ダグラス さすがに私はナイトではありませんが(笑)、赤峰さんのタキシード姿はとてもゴージャスです。いつくらいにつくったんですか?

赤峰 30年くらい前にロンドンで仕立てました。

ショールカラーのダブルブレストのタキシードを、気負わず普段着のように軽やかに着こなす赤峰さん。ボウタイは手で結えるのがこだわりだ。エナメルではなく磨き上げたカーフのスリッポン、スタッズボタンではなく白蝶貝をあしらったワイドカラーのドレスシャツなどに、こなれた雰囲気の秘密があるのかも!?

ダグラス 30年前! 私もその頃、親から譲られたタキシードを着てパーティに行ったことを思い出します。実は英国では袖が擦り切れた古いフォーマルウエアこそが誇らしい、という文化があるんです。きっと着物でも同じですよね?

赤峰 もちろん着物も、代々継承していくものです。着物は直線的な裁断でつくられているから、仕立て直しやすいというメリットがあるんですよ。

ダグラス それは面白いですね。

タキシードを〝正しく〟
楽しむ方法とは?

赤峰さんは、日本人のフォーマルスタイルについて、思うところがあるんですか?

赤峰 まあ、中途半端ですよね。結婚式に着て行ったブラックスーツを、次の日お葬式にも使い回すような、兼用型のフォーマルが主流というか。それは戦後、日本人のフォーマル文化が、アメリカからの影響を強く受けたことが原因なんです。〝着てさえいればいい〟という考え方になってしまう。

ダグラス そういう着回しは、英国ではありえませんね。まあ、階級社会なのでボウタイを結べないような人も多いですが。

赤峰 英国の古着屋さんに行けば安くていいタキシードがたくさん売っているから、コストをかけなくてもちょっと直せば着られるんだよね。英国人にとっては、タキシードなんて普段着みたいなものでしょう?

ダグラス 確かに若い頃から「ブラックタイ」指定のパーティに接する機会は多かったですね。「ホワイトタイ」はそれほど多くありませんでしたが。かつては夫のために美しくボウタイを結んであげられることが、妻の嗜みだった時代もあるそうです。現在はFOX BROTHERSの主催でパーティを開催することが多いのですが、ドレスコードごとにバラエティに富んだ装いを楽しむお客様を見るのが、私にとっても大きな喜びなんです。

赤峰 実は今夜も、ぼくとダグラスさんの主催でパーティを開催するんですよ。さすがにブラックタイ指定だと来られる人も少ないから、グレースーツもアリにしているけど(笑)。

それでタキシードを着られていたんですね。

赤峰 バラシアの生地で仕立てたタキシードに、ピケ素材のイカ胸シャツを合わせて、フリンジの付いたシルクのストールをひっかけてね。こんな格好は30年前からやってるけど、けっこう粋がってたな(笑)。カフリンクスはパールとオニキス。カマーバンドは白と黒、そしてグレー。それくらいは持っていてほしいかな。

「シルクストールはフリンジの調子が命」という赤峰さん。出席者が揃いの格好をするフォーマルこそ、細部へのこだわりがものをいう。
ダグラスさんはどんな装いで出席するんですか?

ダグラス バラシア生地を使ったシングルブレストのタキシードジャケットに、ブラックウォッチのトラウザースを合わせようと思っています。

やはり正統派のタキシードにはバラシア生地がおすすめですか?

ダグラス バラシアは伝統的な選択肢ですね。フランネルもいいですよ。

ブラックウォッチのトラウザースは、正統派のフォーマルシーンではアリなんですか? ちょっとカジュアルにも思えますが・・・。

ダグラス これはスコットランドにおけるトラディショナルです。

赤峰 キルトスカートの代わりだよね。

ダグラス そうです。今や国際的なフォーマルとして通用しますよ。

たとえば、タキシードジャケットにスニーカーやダメージジーンズを合わせるようなスタイルもありますが、これについてはどうお考えですか? ファッション業界やセレブリティのパーティスナップを見ると、そういうスタイルも多く見られますが・・・。

ダグラス ファッション業界ではいいかもしれませんが、英国の正統的なパーティでそれをやると、眉をひそめられますね(笑)。

赤峰 日本の場合、英国と違って都会に行くほど伝統的な文化が略式化されて、なんでもアリになってしまう。むしろ田舎のほうが、紋付袴で結婚式に出席するような文化は残っていますよね。ただ、たとえ機会は少なくても、ちゃんとしたタキシードや着物さえ持っていれば、様々なパーティに出席できて、公私ともに出会いのチャンスは広がるじゃないですか。体型さえ変わらなければ、一生着られますし。ですから若い人には、ぜひとも正しいフォーマルスタイルの楽しみ方を覚えてもらいたいですね。

「ブラック&グレー」をドレスコードに掲げ、今回の取材と同日に開催されたパーティにて。気を衒った装いやハズし技って、周囲を出し抜こうという狙いが透けて、悪目立ちしてしまう。やっぱりパーティには、正統派のタキシードで臨むのが一番なのだ!
ダグラス・コルドー

1964年生まれ。テキスタイルデザイナーとしてキャリアを積んだのち、2008年に英国の名門生地メーカーFOX BROTHERSの経営権を取得。同社の経営を立て直す。英国を代表するウェルドレッサーとしても知られ、FOX BROTHERSの生地の魅力を、身をもって世界中に伝えている。

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