2022.10.4.Tue
今日のおじさん語録
「役者というのは、行をする者、自分というものをよく考え、見極める者のことやと思う。(藤山寛美)」
特集/ぼくのおじさん物語 『伊丹十三』 6

〝伊丹十三〟を
知らなかったぼくの
伊丹十三体験記

撮影・文/古江優生

伊丹さんが亡くなってもうすぐ四半世紀。テレビやネトフリで伊丹映画が観られない今、若者たちと伊丹十三の接点はかなり限られている。果たしてその存在は、今を生きる〝ぼくたち〟にどんな風に捉えられているのか? そしてどう響くのか? そこで本特集の最終章では、26歳のクリエイター、古江優生くんによる、「伊丹十三記念館」のレポートをお届けする。ほぼ初めての〝伊丹体験〟は、彼の心に何を残したのか?

2021年10月30日。

松山空港。

この後ろ姿は、今回私をこの企画に誘っていただいた、山下英介さん。私に文章を書く機会をくれた方だ。現在一緒にお仕事させていただいている関隼平さんが主催する展示会でお会いし、ご紹介いただき、なんやかんやあり、彼が立ち上げる新しいメディア『ぼくのおじさん』で写真、映像の撮影、そして文章を書かせていただくこととなった。

文章ははっきり言って、一番苦手。Instagramのキャプションですら言葉が出てこず、noteも続かずの私に、務まるのだろうか? それでも引き受けさせていただいたのは、自分の手に負えない事だと思ったから。想像できない部分が多いから。自分ができるか、できないか、わからないことを常にやっていきたいと思っている。これをチャレンジさせていただくみたいな、しょうもない言葉で言い現したくはない。お仕事として引き受けて、書いて、世に出したものは見た人にとって努力の過程など関係はない。忖度なし、ぜひ賛否をいただきたく。さて、少し自分のことを追い込んだところで本題に入っていこうと思う。

「伊丹十三記念館」にお邪魔させていただくこととなり、生まれてはじめて松山市まで来た。伊丹十三。ギリギリ字面だけ認知しているくらい。イメージは、映画監督とか、エッセイストだとか、俳優だとかではなくて、すごく抽象的だが、〝モノ好きな人が好きな、憧れている人〟。古い雑誌などを読むのは好きなので、そこで目にしたことがあったかもしれない……。

私は服は好きだが、いわゆるファッションアイコンみたいな人の影響で、服を好きになったわけではない。大学生の頃に、SNS、特に最初はWEARというファッションコーディネートアプリをきっかけにのめり込んでいった。当時のWEARはとっても面白かったんです。ただただ服好きな人が、自由気ままに、様々なコーディネートをアップしていて、純粋に服やファッションを楽しむツールとして。今がダメというわけではないですけれど。話が逸れました。

つまり、モノ、というより、コーディネート、色合わせ、見せ方などビジュアル面としてのファッションを楽しむことからスタートしたということです。なので、はっきり言って、全然詳しくないんです。生地はウールは暖かくて、ポリエステルは洗える。デニムは鉄道労働者のためにつくられた。そのくらいの知識。すっからかんな訳です。山下さんから伊丹十三の話を聞いたり、その著作を読んだりしていくうちに、私はファッション、モノの奥深いところなどに触れてこず、上澄みだけすくって服を楽しんできたのかと思ってしまう。

今日の格好に急に自信がなくなってきた。

松山空港から車で25分ほど。伊丹十三記念館に着いた。庭に展示されたベントレーが目に入る。曲線がとても美しく、ついつい撮ってしまう。

父の影響もあり、車は小さい頃から好きだ。家の車はいつもアルファロメオだった。ちなみに私は『頭文字D』が一番好きな漫画ということもあり、FCが好きだ(RX7-FC)。

「真っ黒の箱」の入口に茂った黄金色の草木が、とても映える。中に入るとエントランス、物販スペース、そして中庭に桂の木が一本、青空に向かって聳え立つ。

展示エリアに入ると、さっそく伊丹十三の顔が。

やあ、いらっしゃい。

あれ、雑誌や本の印象より、柔らかそうな人が出てきた。

展示物や写真を見ていくと、その表現のどれもが新鮮。不思議と、古臭い感じはしない。むしろ最先端のような気すらしてくる。

月並みな表現ではあるが、めちゃめちゃイケてるな、と。ファッションのサイクルにちょうどハマっているからだろうか。

見ていくとひとつの展示に目が止まった。

「若い人」たちへ

MON ONCLE(モノンクル)と言います。ある日ふらっとやってきて、両親の価値観に風穴を開けてくれる存在、それがおじさんなんですね。

これは伊丹十三が編集長を務めた、『モノンクル』……まさに『ぼくのおじさん』という雑誌の創刊にあたってのメッセージ。現存する媒体に、このように価値観を、ある種〝壊す〟というような提案をするものはあるだろうか。最近、皆、「なにが正解なのか」を知りたがり過ぎていると思う。これさえ買っておけば間違いなし、この冬買っておくべきブランド3選。ただの〝情報提供者〟と〝情報受給者〟という構図が多いと感じる。わかりやすく伝えることができる媒体が増えたことによる、副作用なのだろうか。また逸れてしまった。体験記のはずが……。

26歳の私としては、ボッコボコに風穴を開けていきたい。ボコボコ凸凹で、平になるのはまた後ででも良い。

価値観に風穴を開ける。開けられた後はあなた次第。もちろん、風穴が開かなくたってよい。

正解は自分で決めるし、なんだったら選んだものが正解じゃなくても大丈夫。

伊丹十三の価値観は、今の私にとっても、とても心地がよかった。

『ヨーロッパ退屈日記』に収録されているエッセイ『最終楽章』にて綴られている、こちらの一文も好きなもののひとつである。

そうして楽器というものは三、四歳の頃から習い始めなければならない、というのは最も悪質なデマである、と。

「大学には行かないといけない」「会社は3年続けるべき」などの〝一般的に言われていること〟もこちらの一文と似た内容かと思う。ここでいうそんなデマに対して、伊丹十三は実績でその悪質さを証明している。おそらく本人はありのままやっているんだろうけれども。

展示を拝見させていただいた後、館長代行をつとめる玉置 泰さんのお話をお聞きすることができた。

玉置さんから伊丹十三のことを聞けば聞くほど、いかに〝抜け目のない〟人だったのかが見えてくる。ただの表現者ではなくて、しっかりとビジネスの才もあったりと。

その玉置さんのお話しの中で、一点だけ、心がもやっとする点があった。それは、今の若い人たちに感じることは?という問いに対して、玉置さんが「今の時代の人はかわいそうだと思う。僕らの時代と比べるとかもしれないが」とおっしゃった点である。

私たちの世代は、そう思われてしまっているのだろうか? まあ確かに、昔はよかったよね、あの時代はよかったよね、的なお話しはよくある。ただ、私たちの世代が、かわいそうに見えてしまうレベルに、伊丹十三の時代はよかったのだろうか。私たちの世代は霞んでしまうのだろうか。

なんだか率直に悔しい気持ちだ。かわいそうな時代に生まれた覚えはない。
ただ、玉置さんのお話を伺っていると、確かに少し、うらやましい気持ちを覚えてしまう。

そして何より、その時代のよさを体現している圧倒的な伊丹十三の魅力。
エッセイ、俳優、音楽、映画監督、デザイン……それらすべてがとても正直で嘘のない、楽しさ、強さを兼ね備えている。

だが、ただただ悔しがったり、憧れていたって仕方がないので、私が、今の時代のよさを体現する……などと大それたことをいうつもりはないが、まずは私自身が表現者として体現、提示していきたい。写真でも映像でも文章でも。まずはそこからだ。

そうした中で、とてもおこがましいが「伊丹十三」のように、「古江優生」として、唯一無二な、替えの効かない存在になれたらなと。

「ぼくのおじさん」。
派手さはないかもしれない、
わかりやすさもないかもしれない、
今っぽさもないかもしれない、

けれども、ほかにはない、圧倒的な「強度」があると、私は感じます。

この「強度」は、実はここ最近の私のテーマのひとつ。
この話はまた今度にしようかな。

伊丹十三記念館

天才・伊丹十三の功績と魅力と謎を膨大な資料をもとに紐解く、ほかにはない記念館。ファッション、映画、音楽、建築、文学、デザインetc.……。伊丹十三を知らない世代でも、クリエーションに興味のある人なら、必ず大きな〝気づき〟が得られる空間だ。
住所/愛媛県松山市東石井1-6-10
TEL/089-969-1313
開館時間/10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日/毎週火曜日(火曜日が祝日の場合は翌日)

古江優生

1995年生まれ。電子デバイス系の商社に新卒入社するも、2019年に退社。YouTubeやSNSを通して、ファッションやものづくりにまつわるコンテンツを発表し、同世代からの支持を集める。近年ではアパレルブランドのビジュアル制作も手がける、注目の若手クリエイター。『ぼくのおじさん』における〝ぼくたち〟代表。
https://www.instagram.com/yukifurue_/

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