3回目のトランクショー
開催決定!
P.J&CO.の
凄腕彫金師に聞く
「いいシルバーって
何が違うの?」
撮影・文/山下英介
Atelier Mon Oncleで過去2回にわたってトランクショーを開催した、ティファニーに特化したヴィンテージシルバーストアPJ.ANTIQUE JEWELRY(ピージェイアンティークジュエリー)と、その世界観にインスパイアされたブランドP.J&CO.(ピージェイアンドコー)。今回はP.J&CO.のシルバープロダクトを手がける凄腕職人さんへの取材を通して、そのものづくりの深淵に迫った。
シルバー製品にみる
ハンドメイドと
大量生産品の違いって?
シルバー製品好きな「ぼくのおじさん」の編集人は、当然P.J&CO.のシルバーバックルを愛用しており、ほかにもいろいろと欲しいものがあるのだが、とはいえそう気軽に買えるものではないし、納期だってもうちょっと早い方が嬉しい(だよね?)。
デザイナーである山田大智さんに、日ごろからチクチクとそんな疑問をぶつけていたところ、「じゃあ実際にウチの職人さんがつくってるところを見てくださいよ!」ということで、今日は都内某所にあるP.J&CO.の工房に連れてきてもらった。ハイクオリティなシルバー製品がどうやってつくられているのか? その価格や納期は妥当なのか? 編集人が、読者の皆さんを代表して検証したいと思う!



凄腕彫金師であるMさんの自宅兼工房。この6畳ほどのスペースから、世界に注目されるシルバーバックルやジュエリーが生まれている。
山田 うちのシルバー製品は、東京在住のとある彫金師さんが、ほぼひとりでつくってくれています。事情によりお名前は出せないので、Mさんとさせてください。
思ったよりも小さい工房・・・というか思いっきりマンションの一室ですが(笑)、シルバー製品ってこういう規模の工房でつくられることが多いんですか?

Mさん ぼくはなんでもやるフリーの職人なんですが、大手メーカーさんのシルバーをつくっているところはいわゆる「工場」で、磨きなら磨き、石留めなら石留め、と分業制になっているところが多いと思います。たとえば磨きにもいろいろあって、これはキャスト(鋳造)といって量産の作業からあがってきた状態で、まだ金属の通り道(湯道)がついた状態です。この状態から製品まで仕上げるにしても、湯道を取る人、途中まで仕上げる人、溶接して組み立て仕上げる人・・・といった具合に何段階にも作業が分かれているんです。
山田 うちの製品の場合、シルバーをあえて傷つけてヴィンテージっぽい雰囲気に仕上げたりするので、大規模な工場さんでは難しいんです。その点Mさんはひとつひとつ細かくやってくれるので、断然うまいですよ。
Mさん 山田さんからは「工業製品っぽくならないようにしてほしい」とよく言われるので、それは心がけています。
山田 P.J&CO.のものづくりは、まずはぼくのデザインをもとにMさんが設計して、キャストを外注します。キャストとはワックスでつくった原型をもとに石膏で型取りして、その中に溶かした銀を流し込んでシルバーを造形する製法なんですが、この作業から戻ってきたシルバーは、洋服でいえば生地みたいなものですね。で、それをさらに製品の状態にまで加工してくれるのも彼。なのでほぼ彼がひとりでつくってくれている感覚です。
洋服でいえば、パターンを引いて縫製もする、みたいな感覚なのかなあ。でも、基本的にはヴィンテージのバックルを再現しているわけですよね?
山田 デザインでいえば昔のティファニーやラーターアンドサンズ、ブラッキントンなどのヴィンテージからインスパイアされているんですが、これらは強度が弱いんです。だからこそ貴重ともいえるのですが・・・。なので、ここが1ミリだと曲がっちゃうから、1.2ミリにしておきましょう、みたいなことを考えてくれるのが彼なんです。

ただリメイクするだけじゃダメなんですね!
Mさん 提案されたデザインが、どういう構造だったら成り立つのかを考えるのが、ぼくの最初の仕事ですね。それでも作業するうえでは、どうしても細かいところで地金がうまく流れていかなかったり、キャスト不良もよく起きるんですが、そんなときは手作業でひとつひとつ修正していきます。この作業はなかなか大変ですね。失敗したところを「銀蝋(ぎんろう)」という溶けやすい素材で修正していくやり方もあるんですが、それをやると変色したときに色の差が出てしまうので、うちではやりません。
山田 新品の状態だと誰もわかんないんですけどね(笑)。
〝工業製品っぽくならないように〟とは、どういう意味なんでしょうか?
Mさん たとえばバックルの裏側のちょっとした丸みを、エッジが出ないように手作業できれいにするんですが、こういうのって機械で削るといかにも工業製品みたいになっちゃうんですよ。なのでちょっとずつ手で磨きながら丸みを自然につける。それもわざとらしくじゃなくて、勝手に丸くなっているように仕上げる作業が多いんですよ。バッファーみたいな機械も基本的には使いません。
一番大変な作業は?
Mさん 湯道を削ったあとに、全体を成形する作業でしょうか。徐々にやすりを粗いものから細かいものへと替えながら磨いていくのですが、ひとつの面は同じように磨いていく必要があるので、気が抜けません。ちょっとでもズレると、面がダレてしまうんです。P.J&CO.のバックルはシンプルなだけに、ちょっとでも歪むとすぐにわかってしまいます。慌てず、力をほぼ入れずに、ヤスリの重さだけで削っていく感じですね。





山田 ただ、シルバーって構造上どうしても中に気泡が入るんですよ。なのでとことんキレイにしていっても、最後の仕上げで穴が出てしまったら、失敗作になるんです。
Mさん ここまでやって工賃もらえねえのかと、血の涙が出ますよ(笑)。
P.J&CO.のシルバーって、ちょっとヴィンテージっぽい雰囲気がありますが、それはいわゆる燻し液とかを使うんですか?
Mさん いや、一度ピカピカになるまで磨いた上で、ガーネットの砂を高いところから当てて、少しだけ表面を傷つけているんです。現代のヴィンテージ加工にはほとんどサンドブラストが使われているんですが、こっちの方がより自然に見えるので。


P.J&CO.のシルバー製品の特徴ともいえる独特な表面感の決め手が、ガーネットの粒子による仕上げ。
山田 なのでシルバー磨きを使ったとしても、この粒子感は残るんですよ。この雰囲気こそがウチのやりたいことなのですが、高齢の職人さんにはなかなか理解されにくいんですよね(笑)。
なんでこんなことやるんだ、みたいな。
山田 ジュエリーって本来キレイなものなので、一種のタブーなんですよ。
いわゆるハイジュエリーとP.J&CO.の製品とでは、やっぱり考え方が違うんですね。


山田 そもそもゴールドやプラチナのほうが加工しやすいので、年齢層の高い職人さんはシルバーをやりたがらないんですよ。なので質の高いシルバー製品をつくれる職人さんは本当に貴重です。
Mさん シルバーって世の中の金属の中で最も熱伝導率が高いんです。しかも燃やすとすぐに酸化して黒くなるんですが、その部分は「銀蝋」という溶接用の銀が流れないので、特殊な薬剤を使う必要があります。実はとても加工しにくい金属なんですよ。
シルバー製品って
どうして高いの?

山田 ちなみに、金属をガリガリ削ったときに出てくる地金の粉がありますよね? ここだけの話、これって実は職人さんにとって一種のボーナスだったりするんですよ(笑)。もちろん職人さんとメーカーさんとの契約にもよるんですが。
うわあ、それは知りませんでした!
Mさん これが金だったら、正直美味しいですね(笑)。
山田 そういう意味でも、シルバーって職人さんにとってはあまり美味しくない仕事なんでしょうね。ただ、昔原宿にいっぱいシルバーの露店があった頃は、銀は1g20円程度だったんですよ。なので若い職人さんにとってはスタートラインを切りやすい素材だったんだと思います。それが今は600円に迫る勢いですからね・・・。
なんと、約30倍! よく考えたら、あれほどたくさんあったシルバーの露店も、すっかり見なくなりましたねえ・・・。
山田 ゴールドは2万、3万の世界だから、それと較べたらシルバーはまだ安いでしょ?なんて言われるんですが、やっぱり製品にする上ではいろんな工程がありますから、商品になったときの価格はその数十倍になってしまう。残念ながら昔の値段では間違いなく出せないですね。
Mさん 金属だけではなくて、キャストに使う石膏など、あらゆる素材の原価が上がっていますから、仕方ないですね。
いわゆる銀製品って、シルバー925という素材を使うことが多いと思いますが、この素材自体にはクオリティの差ってあるんですか? つまりP.J&CO.のシルバー925と、露店で売ってるシルバーのシルバー925は、全く同じクオリティなんでしょうか?


M 違いはありますね。銀の含有率は同じでも、ほかにどんな素材が混ざっているかで、変色の具合が変わってきますから。うちで使っているような日本製のシルバー925は、溶かしては純銀(シルバー999)を混ぜ、という工程を繰り返すことによって、一回不純物を取り除き、純銀に戻してからさらに銅を混ぜているので、変色の仕方が自然だと思います。
そういえば前にインドで買ったシルバー製品が、何年経ってもピカピカのままなんですが・・・。
山田 それは掴まされましたね(笑)。ただ、現代のメゾンブランドは、パラジウムなどを企業秘密の配合で混ぜることで、極めて変色しにくいシルバーを使っているようです。ただそれって、ぼくがやりたいこととは少し違うんですよね。やっぱり変色してこそシルバーだと思いますから。

ちなみにこのバックルを仕上げるのにどのくらいかかるんですか?
M つきっきりでやって1日1個ですかね。全部の湯道を落として、下磨きして、ロウ付けしてそれぞれのパーツを溶接して、また磨いて・・・。という工程を一気にやるので、5個くらいあったらなかなか終わらないですよ。
そんなにかかるんだ! シルバーのバックルだけじゃなくて、レザー部分も職人の手作業だし、そう考えると今の価格は決して高くはないんだなあ・・・。
山田 わかってもらえてよかったです(笑)。
次回のトランクショーは
新作バックルも登場!
さあ、お待たせしました! ここからは「ぼくのおじさん」のアトリエで開催するP.J&CO.とPJ.ANTIQUE JEWELRYのお知らせです。
山田大智さんがデザインするシルバーブランドP.J&CO.に関しては、定番のラインナップに加えて新型バックルが2型登場!




ティファニーを中心としたヴィンテージジュエリーを展開するPJ.ANTIQUE JEWELRYからは、ネックレス、ブレスレット、ゴールドリングなど、全70点ほどをラインナップする予定です。ヴィンテージゆえ、こちらで紹介しているプロダクトも当日までに売り切れてしまうかもしれないので、その際はご容赦ください!

1990年代に製造された個体ながら、第二次世界大戦期につくられたミリタリーものに近い、無骨でヴィンテージテイスト溢れる造形。やや潰れたような表情のチェーンや、簡素なクリップ構造が特徴。

19世紀後半からアメリカで名を馳せ、ティファニーのプロダクトも製造していたシルバーメーカー、Blackinton&Co.(ブラッキントン)。こちらは別注品ではなく自社ブランドとして販売されたもので、20世紀初頭らしい優雅なアール・デコ装飾が施されたコンパクトミラー。

創業以来、ジュエリーのみならずテーブルウエアやデスクアクセサリーにも力を入れてきたティファニー。こちらはその豊かな遊び心が遺憾なく発揮されたゲーム用コインで、HEADSとTAILSの文字が刻まれている。

古くからポケットナイフをつくり続けているティファニー社。1980年代以降はヴィクトリノックスが有名だが、それ以前は様々なメーカーが製造していた。こちらはアメリカの老舗メーカー、Imperial Knife Companyが製造を手がけたもので、実用品ながらアール・デコを感じさせるエンジンターン装飾が施されている。
ヴィンテージティファニーのみならず、シルバーという素材と、それを扱う職人技術の希少性がますます高まっている今、手に入れておいて損はないと思う!
会場ではとってもフレンドリーな山田さんが、あふれんばかりの知識と情熱で、皆さんをお迎えします。ぜひ遊びにきてください!
P.J&CO.
PJ.ANTIQUE JEWELRY
トランクショー
【場所】
Atelier Mon Oncle
住所/東京都新宿区水道町1-9 しのぶ荘(地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩4分、地下鉄有楽町線江戸川橋駅から徒歩6分程度)
【開催日時】2026年7月25日(土曜)12:00~19:00
2025年7月26日(日曜)12:00~19:00
【展開商品】・P.J&CO.のオリジナルアイテム(※受注生産につき約4ヶ月ほどで納品させていただきます)
・PJ.ANTIQUE JEWELRYのアンティーク&ヴィンテージジュエリー
【入場】予約優先 ※フリーのお客様も大歓迎いたします。
【決済方法】クレジットカード・現金
【ご予約・イベントのお問い合わせ】
info@mononcle.jp もしくはDMにてお願いいたします。