2026.5.30.Sat
今日のおじさん語録
「要するに、その土地で食うものを食え。/獅子文六」
名品巡礼
27
連載/名品巡礼

帽子づくりは
古着に学んだ。
職人・奏弥さんの
〝寄り添う〟哲学

撮影・文/山下英介

きたる6月、「ぼくのおじさん」が帽子のトランクショーを初開催! その制作を引き受けてくれるのは、caudaというブランドを手掛ける職人の川口奏弥さんである。素敵なプロダクトは、いつだって素敵なひとの手のひらから産み出される。いつの間にかぼくの顔の一部になってしまった彼女の帽子をかぶっていると、改めてそんな真理に気づかされる。この嬉しさを、ぜひみんなにも味わってもらいたくて。

ぼくの好きな
caudaの帽子

「ぼくのおじさん」の編集人は、帽子が大好きだ。とりわけベレー帽には目がなくて、かぶっていないときは少し落ち着かない。

最近では「ぼくのおじさん」のオンラインストアで販売しているクラシックなバスクベレーを中心に、いろんなタイプを使い分けているのだが、そのなかでも春夏の定番にしているのが、cauda(コーダ)というオーダーメイドのブランドのものだ。

アンティークのヨーロッパ産リネンを使って3枚のピースでつくられたそのベレー帽は、ヨーロッパの古着屋さんで売っていそうなクラシックな雰囲気ではあるけれど、巷のベレーとはなにかが違う。立体的なつくりで芯地も使っていないからか、〝この形〟というものが存在しないのだ。ファッション雑誌編集者的な視点からいうと、正直いって〝ブツ撮り映え〟がしないというか。

実際にかぶってみても、最初のうちは「あれ、これはどうかぶればいいの?」とよくわからなったりもするけれど、鏡を見ながら整えていくと、どこかでその日の気分や洋服にぴったりの、パーフェクトな形に辿り着く。

そうなったらもう病みつきで、髪型を整えるような感覚でボリュームをコントロールしながら、毎日のファッションに合わせたスタイリングが楽しめるようになるのだ。えてして立体的につくられた上質なジャケットはハンガーづらが悪いことが多いが、この帽子もまさにそういうこと!?  メンズの服ってカチッと決まった形であることがほとんどだから、こういう自由な遊び方、楽しみ方ができるものって、意外と貴重なんじゃないかな。

フェルト製じゃないし、もともと洗いざらしで仕上げているから取り扱いも簡単。かぶっていないときはくしゃっと丸めてポケットに突っ込んでもいいし、汗をかいたら洗ったっていい。そしてなにより、顔にも服にもなじんで、自分の一部になってくれる。なんだかこれをひとつ持っていると、とても自由な気分になるし、安心もできるんだ。

そんなぼくの大好きなcaudaの帽子をつくっているのは、川口奏弥(かなみ)さんという、とってもお洒落な女性の職人さんである。じつは数年前に別の媒体で取材をさせてもらっているので、その生き方やバックボーンについてはそちらをご覧いただきたい。

奏弥さんは大学卒業後、広告代理店勤務を経て帽子制作の道へ進み、いったんは帽子アトリエに就職するも、出産を機に退職。その後高円寺のヴィンテージショップでアルバイトとして勤め、個性的なセンスで話題を集めた。2020年からは自身の帽子アトリエcauda(コーダ)で、職人として活動している。奏弥さんがつくった帽子がほしい方は、予約制のアトリエか、取り扱いのあるセレクトショップをチェックして。Instagramの個人アカウントはこちら

さて、ずいぶんと前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。「ぼくのおじさん」の編集人は、そんなcaudaの帽子をかぶっているときに、ひとつのアイデアを思いついてしまった。「ぼくのおじさん」が赤峰幸生さんから提供していただき、いつもオリジナルのバケットハットに活用しているデッドストック生地の残反でcaudaの帽子をつくってもらったら、とっても素敵なものができるんじゃないかと。そしてトランクショー形式で、自分の好きな生地とモデルを選び奏弥さんに仕立ててもらったら、ずっと手放せないものができるんじゃないかと・・・。

編集人が、そんなアイデアを奏弥さんに持ち込んだところすぐに快諾いただき、早速そのサンプル制作がスタート。今日はその制作風景を取材させてもらった。

頑固でしなやかな
奏弥さんの生き方、つくり方

caudaの型紙は、奏弥さんが生地を木型に添わせて、調整を繰り返しながらつくったオリジナル。縫製前に生地に洗いをかけているから、洗濯しても極端に縮むことはない。
奏弥さん、今日は作業中にお邪魔します! 以前アトリエにお伺いしたのはもう5年前。早いものですね。

奏弥 そうですねえ。caudaは2020年に立ち上げたので、あの頃はまだ帽子づくりを始めたばかりでした。つくるのが遅くて、睡眠不足で十円ハゲができたりして(笑)。

ということは、その間に技術力も進歩された?

奏弥 そうなんですよ! 今日はそれを一番お伝えしたかったんです(笑)。今回頂いたお題って、1点もののデッドストック生地じゃないですか。しかも普段ではなかなか扱えないような、高級な生地ばかり。1枚から帽子ひとつ分しか取れない生地もあるから、昔の私だったら引き受けたくなかったと思うんですよね。でもこの仕事を始めて6年を経て、絶対に失敗しないというところまではいけたのかなって。

テーラーさんが使うものとはひと味違う小さな裁断ハサミは、じつはバラの剪定用。とても使いやすいのでおすすめだとか。
新型もいくつか登場しましたね。

奏弥 キャップとターバン、そしてキャノチェ(カンカン帽)タイプが加わりました。

こういうのって、どこから思いつくんですか?

奏弥 デザインは昔からある形がもとになっていることが多いですね。でもクラシックなキャノチェだと全体がカチッとしてかぶりにくいから、トップは頭に沿うような生地に替えて、さらにたわみが出るようなつくりにしたら、お洋服にもなじむだろうなって。そんな考え方が基本にあります。

ストローと服地を組み合わせた、cauda流カンカン帽「キャノチェ」。軽くて気軽にファッションに合わせられる、絶妙なデザインだ。トップが最初からくしゃっとした表情でたわんでいるのは、裏地と表地のサイズを少しだけ変えているから。
生地のやわらかさやたわみは、どの帽子にも共通していますよね。

奏弥 そうですね。パチンと決まったフォルムの帽子って、ときにお洋服とケンカしちゃうこともあるので。たわみに関しては裏地に対して表地を少しだけ大きくとって、意図的にきっちり見えないようにさせています。

caudaの帽子は、さすがにビジネススーツには難しいけど(笑)、カジュアルには抜群に合うと思います! 

奏弥 硬いものはほかのメーカーさんにいくらでもいいものがあるけれど、意外とやわらかいものって少ないな、と思ったんです。量販店で販売しにくいという理由もあるのかな。

こういう帽子って、実際にかぶってみないとイメージしにくいですし、技術的に量産は難しいですよね?

奏弥 どこの工場に持っていけばいいんだろう?って感じです(笑)。うちの場合は洗濯してもほつれないように、裏地の縫い代がいっさい表にでないようにつくっているから、使い込んでクタッとはしても、ボロッとはならないんです。そういう発想が、そもそも量産的ではないんでしょうね。

名門の帽子メーカーでも量産のカジュアルハットとなるとかなりラフなつくりなのだが、手縫いとミシン縫いを併用してつくられたcaudaの帽子は、細部の始末がじつにきれい。ヨーロッパの価値あるヴィンテージウエアはもちろん、デザイナーズに合わせても決してひけはとらない。それでいて帽子だけが主張するということもないから、いいんだよね!
こんなきれいにつくられているカジュアルな帽子って、結構珍しいと思いますよ!

奏弥 かぶったときに力がかかるところは、返し縫いの糸も露出しないように裏から玉留めで始末しているんですが、これはたぶん誰もやっていないと思います。でも、ほとんど誰も気づかない〝ちょこん〟とした糸からほどけていくことって意外と多いんですよ。そこまでやる必要があるのかっていう話なんですけど(笑)、洗いながら使っていくうえでは絶対にそのほうが安心ですからね。

帽子の裏側を見てみれば、そのていねいなつくりは一目瞭然。裏地に添えられたレザーのタグが、caudaのアイコンだ。
ツバの部分も、なんだか少しやわらかくて、独特な触り心地ですよね。

奏弥 うちではコットンやリネンの芯を入れています。ポリエステルやプラスチック芯のカチッとした感じを好む方もいるんでしょうけど。

こちらがキャップに使われるコットンの芯地。ツバの表情がとても自然だ。
生地がアンティークだったりするから見落としがちだけど、意外にも仕立てのいいジャケットに共通するこだわりが詰まっているんだなあ。ちなみに裏地にはポリエステルなどの化繊じゃなくリネンを使われていますが、なにか理由があるんですか?

奏弥 むかし古着屋さんで働いていたときに、古いジャケットを見る機会がたくさんあったんですが、化繊がない時代の裏地って、当然コットンやリネンなんですよね。そうなると洗っていくうちに自然と表地と裏地の生地の縮み方が変わってくるので、だんだんズレていくんですが、私はそのパッカリングの雰囲気がカッコいいなと思ったんです。大好きなポール・ハーデンの服も、そういった古着から影響されていますし。

ヴィンテージウエアとデザイナーズブランドをミックスさせた装いを好む奏弥さん。なかでもヨーロッパのヴィンテージからインスパイアされたポール・ハーデンは、大好きなブランドだとか。もちろんcaudaの帽子は古着にもデザイナーズにもよく似合う! そして女性にも似合うしかぶりやすいから、ぜひ試してもらいたいな。
ぼくもよくcaudaの帽子をポール・ハーデンのスーツに合わせているから、よくわかります(笑)! ポール・ハーデンもcaudaの帽子も、最初からやわらかな雰囲気ではありますが、洗い込むとよりクシャッとして、いい雰囲気が出るんですよね。

奏弥 お洋服、特に大好きな古着に合うかなという点は、いつも気にしていますね。

しかし実際に制作工程を見せてもらうと、帽子って小さなものだけど、本当に手間がかかるんだなあ、と思わされますねえ。オーダーメイドにしてはとてもお手頃だとも思いますし。そういえば既製品のWeb販売とかは考えないんですか?

奏弥 こういう時代なので周りからもすすめられますし、私も考えなくはないんですが、やっぱり帽子って、つくった人がかぶせたほうがいいんじゃないかな、とも思うんですよね。ジャケットやパンツだったら、みんな慣れているから、だいたいの着方はわかるじゃないですか。でも帽子の場合、深さや傾斜もあるし、ボリュームを前に持ってくるか、後に持ってくるかによってその表情は全く変わってくる。なのに一番似合うかぶり方を試せていない人ってけっこう多いんです。せっかく買ってもらっても、ネット販売でただ届けて終わりだと、かぶり方がわからないがために、タンスにしまわれちゃうんじゃないかって・・・。私、考えすぎですか(笑)?

実はこの日つくってもらったのは、編集人が持ち込んだw.billのヴィンテージ生地! 今回のトランクショーでは、そんな貴重な生地をたくさん用意してお待ちしております! 
いや、素敵な姿勢ですよ!

奏弥 周りのみんなからはSNSの使い方とかに関して色々アドバイスをもらうんですが、私のやってることっていつも遠回りで、届くまでに何年かかるんだろうってことばかりなんです(苦笑)。ただ衝動的にものを買わせるようなことをしてはいけない、という感覚はどこかにあるのかな。少し前に、5年悩んでベレー帽をひとつ買ってくれたお客様がいたんですが、私はそれが、本当に嬉しかったんです。私みたいなやり方でも、ずっと忘れないで見続けてくれた方がいたんだって・・・。

職人さんの対面販売で、しかもハンドメイド。アフターケアだってできるわけですもんね。

奏弥 お手入れのアドバイスも大事ですからね。

SNS戦略が難しいなら、それこそポール・ハーデンみたいな神秘的なイメージで勝負しつつ価格をグッと上げちゃうみたいな手もありそうですけど(笑)。

奏弥 そういうことができる人、すっごく羨ましいんですけど、やっぱり私は「わからないことがあったらなんでも言ってくださいね」みたいなタイプかな。ついつい寄り添っちゃうんです(笑)。もちろん自分のことは大事ですが、そこまで立派に扱うこともできませんしね。

う〜ん、5年前から全くブレてなくて、安心しました!

奏弥 自分的にはいつも悩んでいるし、ブレてるような気もするんですが、まわりからはそう見えないみたいです。やっぱり私、頑固みたいですね(笑)。

男性も女性も大歓迎!
「ぼくのおじさん」はじめての
帽子のトランクショー!

こちらは英国W.BILL社のツイードでつくってもらったベレー帽。お好みによっていろんなアレンジが楽しめるから、ぜひ帽子初心者の方にも試してもらいたいな。

というわけで「ぼくのおじさん」のアトリエで開催が決定したcaudaのトランクショー。コンパクトベレー、ボリュームベレー、キャップ、セーラーハット(バケットハット)、ターバン、キャノチェ(カンカン帽)という6モデルと、アトリエに所蔵しているデッドストック生地から好みのものを選んでいただき、ジャストフィットするサイズの帽子をひとつから仕立ててもらえるという、メイド・トゥ・オーダーのシステムだ。

いわゆるクラシックな帽子とはひと味違ったデザインだけど、決してかぶる人を選ばないデザインだし、女性にもよく似合う。

こちらは編集人が大好きなボリュームベレー。ボリューム感の調整次第で、いろんな表情を楽しめる人気モデルだ。
ミリタリーのベレー帽をモチーフにしたコンパクトベレー。顔なじみがよく、かぶる人を選ばない。
こちらはcauda流キャップ。いわゆるベースボールキャップとはひと味違う、ヨーロッパのワークキャップを彷彿させるスタイルだ。
ヨーロッパのヴィンテージから着想を得たターバン。かなりハードルが高そうな気もするが、じつはニットキャップ感覚でかぶれるから、いちど試してもらいたい。こういうのを上質なスーツ生地でつくったら素敵だろうな!
バケットハット感覚でかぶれる「セーラー」。文字通り水平さんの帽子をモチーフにしたものだが、後頭部にボリュームをもたせた独特なスタイルが魅力だ。
帽体にやわらかな生地を使ったcauda流カンカン帽「キャノチェ」。ツバの部分にもやわらかなストローを使っているので、じつに軽くてかぶりやすい。

ちなみにデッドストック生地は春夏もの、秋冬ものともにかなりの選択肢(おそらく100近く)を用意しているから、きっと選びごたえあると思う! 英国製の一流どころのウール、リネン、ツイードに、赤峰さんがオリジナルで織らせた国産生地etc.・・・。オリジナルバケットハットを見たことのある方なら、そのクオリティはきっとご存じでしょう。

ただしcaudaの帽子はくたっとやわらかな表情が身上なので、奏弥さんから「この生地とこの帽子は合わないと思う」という判断をさせてもらうこともあるので、その際はご理解ください。

さあ、どんな生地が待っているかは、来てからのお楽しみ。そしてあなたに似合う帽子がどんなものかは、かぶってからのお楽しみ。

いちばん自分が自分らしくいられて、ご機嫌にすごせる帽子を選びに来てくださいね。

cauda 
& Mon Oncle
トランクショー

【場所】

Atelier Mon Oncle

住所/東京都新宿区水道町1-9 しのぶ荘(地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩4分、地下鉄有楽町線江戸川橋駅から徒歩6分程度)



【開催日時】


6月20日(土曜)12:00~19:00

6月21日(日曜)12:00~18:00

【オーダー価格について】
●ボリュームベレー 35,200円(税込)
●コンパクトベレー 35,200円(税込)
●セーラー 37,400円(税込)
●ターバン 37,400円(税込)
●キャップ 39,600円(税込)
●キャノチェ 39,600円(税込)
どの生地を選んでもすべて一律の価格となります。



【納期】

約3ヶ月。ご自宅まで配送させていただきます。



【予約】

不要。ご都合のよいお時間にお越しください。
※手狭なアトリエゆえ、お待たせしちゃったらごめんなさい!



【決済方法】

クレジットカード・現金



【イベントのお問い合わせ】

info@mononcle.jp
もしくはDMにてお願いいたします。


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