2024.10.4.Fri
今日のおじさん語録
「雑草という植物はない。/昭和天皇」
名品巡礼
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連載/名品巡礼

ついに完成!
セビロ屋・泉さんが
みんなに届けたい
〝究極の無地〟って!?
(4)

撮影・文/山下英介
撮影協力/ファイブワン・ファクトリー

90年前の織機で織られる「葛利毛織」の生地。工場長岩下信之さんの叡智と情熱が結集した縫製工場「ファイブワン・ファクトリー」の仕立て。そのふたつを融合させた〝究極の無地〟スーツとはどんなものになるんだろう? 期待しながら待つこと約半年。ついに〝セビロ屋〟泉敬人(いずみたかと)さんから、完成の報告が入った! 機屋と工場、そして泉さんの想いが詰まった生地とスーツを、みんなも見に行こう! そして着てみよう!

見事に実現した!
理想の〝もっちり感〟

どうも、お久しぶりです! ・・・うわあ、もしかしたらおふたりが着ているのは・・・!?

 はい、ついに完成しました。

〝究極の無地〟で仕立てたスーツがこちら! 店長の泉さんはグレー、フィッターの深澤礼人(あやと)さんはネイビーを着用。ふたりとも実に紳士的で格好いい!
ものすごく格好いいじゃないですか。

 まさに狙った通りのもっちり感が引き出させました。

工場長のお言葉をお借りするなら、最高のうどんみたいな(笑)。

 そうなんです。決して重たい生地ではなく、柔らかくて着心地も軽やかなのに、高密度でシワになりにくい。お客さまに自信を持って勧められる生地ができました。本当に葛利毛織さんのおかげです。工場の職人さんからも、「しっかり安定してアイロンがかけられるし、とても縫いやすい」と大好評でした。私としてもホッとしましたね。

見た目からすると強撚糸やモヘア混のようなザラザラ系の肌触りを想像してしまうが、触ってみると不思議なほど柔らかく、それなのにしっかり弾力性を備えている。その感触は、ぜひお店でお試しあれ。
葛利毛織さんで色々と打ち合わせをされていましたが、結局スペック的にはどんな生地になったんですか?

 60番手双糸(60番手の糸を2本撚り合わせたもの)と64番手双糸を撚りあげた、4ply(4本の糸を撚り合わせた1本の糸)の糸を使い織っていただきました。打ち合わせでは目付け(100×150㎝あたりの重さ)の目安を300g〜330gくらいかな、と言いましたが、実際に測ってみたところ338gでした。ただカシミアを5%混紡できたので、体感ではもっと軽く着られると思います。実をいうと、カシミアを入れたらすごく高い生地になっちゃうんじゃないかと不安だったのですが、なんとか予算内に収めていただけました(笑)。

無地だけど控えめな杢感があって、表情が実に豊か。普通のビジネススーツをつくってものっぺりとした印象にならないし、コーディネートにも奥行き感が出て、着る人を魅力的に見せてくれる。ビジネス、フォーマル、カジュアルにまで幅広く使えるし、こういう生地は着るほどに味わいを増していくから、スーツ初心者の方にもおすすめだ。
パッと見ではパリッとした手触りなのかな、と思いましたが、思いのほか肌触りがソフトなのは、カシミアの影響もあるんでしょうね。ただ、ちょっとTVショッピングみたいな質問ですが(笑)、やっぱりファクトリー創設60周年生地、かつカシミア混紡ということで、ちょっとハイエンドなものになるんじゃないですか!?

 いや、それがうちの中では中価格帯なんですよ。そこもひとつのこだわりでしたから。

こうしたハイクオリティの生地が実用的な価格で手に入るのも、日本の生地、そして仕立てならではというわけですね。それにしても究極のベーシックと仰っていましたが、泉さんの仕立てはけっこう攻めてますよね!? ジャケットはピークドラペルでひとつボタン。しかもボタンは共生地のくるみですか。さらにベストはダブルブレスト、パンツはボタンフライでサイドアジャスタ付き・・・しかもパンツのシルエットがまたすごい。相当趣味性高いですよ! 


こちらが葛利毛織の生地で泉さんが仕立てたスリーピーススーツ。かなりデザインに凝ってはいるが、決して遊びすぎない大人のスーツに仕上がっているのは、上質な生地だからこそ。仕立て映えが素晴らしい! オーダー価格は写真のスリーピースで¥172,700(税込)、上下で¥143,000(税込)、ジャケット単品で¥104,500(税込)。

 パンツの裾幅は26㎝くらいです(笑)。生地が最高のベーシックだからこそ、こうした少しクセのあるデザインも自信を持って取り入れられるというか。こういう太いパンツってシルエットが崩れやすいのに、しっかりキープしてくれる。しかも柔らかいのにヒザが抜けないのは、この仕事をやっている私としても不思議です。

これ、どんなときに着るイメージなんですか?

 ビジネスやフォーマルシーンにマッチするのは言うまでもありませんが、私にとっては普段着ですね。こういうドライなタッチで無地の平織り生地こそ、攻めたデザインやディテールを楽しめますから。今日はタイドアップしていますが、ベストなしでウエスタンシャツを合わせて着るのもいいかなと思っています。これがツイル系のツルツルの生地だと、ドレスアップはよくてもカジュアルに合わせにくくなるときがありますからね。

職人さんが気持ちよくアイロンをかけてクセ取りできたんだろうなと想像させられる、ラペルの見事な立体感! 生地に合わせた芯地を使う、ファイブワン・ファクトリーの仕立てもさすがだ。


シックな杢感が魅力のグレーもいいが、光沢控えめなのに表情豊かなネイビーも捨てがたい。ネイビー無地は生地や色調によって子供っぽく見えたり、逆にギラついたりと選びが難しいのだが、こちらはそんな心配は皆無。若々しさと大人の成熟感を併せ持つ、とても魅力的な風合いだ。
ファクトリーが縫いたい生地と、機屋が織りたい生地とが融合した、季節もシーンも問わない究極のベーシックというわけですね。これって今後、ファイブワンさんの定番生地になっていくんですか?

 そうですね。今回のプロジェクトは私にとっても初めての経験で、大変なことも多かったのですが、葛利毛織さんと工場の職人さんのたちのおかげで素晴らしいものがつくれました。どんどんこの生地で仕立てていきたいです!

生地はやっぱり自然光の下で見るのが一番ということで、最後にファイブワンがお店を構える銀座の街で、泉さんを撮らせてください!

 はい、喜んで!

生地のしなやかさや奥深い質感がよくわかる、日陰で撮った写真。柔らかい生地で太いパンツを仕立てると、シルエットが崩れてしまうこともあるが、この生地ならそんな心配もない。
こちらは生地にパカンと陽射しが当たった様子。下品なテカリもなく、とてもシックな印象だ。生地は光の加減によって全く印象を変えるので、選ぶときはしっかりチェックしよう!

第1回「泉さんの想い」篇はこちら

第2回「葛利工業見学」篇はこちら

第3回「ファイブワン工場見学」篇はこちら

ファイブワン銀座本店

大阪の実力派オーダースーツファクトリー、ファイブワン。全国に8店舗ある直営店における、本店がこちらの銀座店だ。銀座というと格式が高そうだけど、泉さんのような若くてカジュアルにも精通したスタッフが在籍しているので、気軽に行ってみよう。

住所/東京都中央区銀座4―5−1 教文館ビル5F

電話/03-6263-0688(予約制)

営業時間/11:00〜20:00(平日)、11:00〜18:00(日曜)

休日/月曜日、木曜日

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