2024.11.7.Thu
今日のおじさん語録
「人間は一人では生きることも死ぬこともできない哀れな動物、と私は思う。/高峰秀子」
名品巡礼
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連載/名品巡礼

セビロ屋・泉さんは
スーツとカジュアルの
境界線をなくしたい!
(1)

撮影・文/山下英介
制作協力/ファイブワン・ファクトリー

日本を代表する実力派スーツファクトリー「ファイブワン」の銀座本店には、〝セビロ屋〟を名乗る名物店長、泉敬人(いずみたかと)さんがいる。オーダースーツの世界では珍しい個性的な着こなしに「ぼくのおじさん」はいつも注目していたのだが、今日はそんな彼から呼び出しが。その要件はいかに? 4回に及ぶレポート記事の、第1回目を公開します!

ルールがあるから
崩すことも楽しめる!

SNSではちょっとワイルドなカジュアルを披露することもあるから、怖い人なんじゃないかと思われているかもしれないが、泉さんはとっても物腰柔らかな紳士! 遠慮せずにお店に行こう。
いつもオーダースーツ業界の方とは思えない着こなし、楽しませてもらっています! 泉さんは、どんなきっかけでスーツのお仕事を始めたんですか?

 昔から洋服の仕事をしたくて、大学を中退してから「ドライボーンズ」というショップで働き始めたんですよ。

今のお店とはかけ離れたテイストですよね(笑)? ロカビリーやモッズからヴィンテージ系までを扱う、かなり濃厚な。

 私はもともとロックカルチャーから強く影響を受けていまして、お洒落の目覚めもモッズスタイルだったんです(笑)。そこからイタリア系の既製服を扱うショップを経て、2017年に「ファイブワン」に辿り着きました。既製服は全く勝手が違うので最初は戸惑いましたが、熱量のある仲間に囲まれて、すごくやりがいを感じています。

もともとブリティッシュビートやオールディーズなどを好んで聴いていた泉さんは、カジュアルスタイルの着こなしにも、どこか音楽の薫りを漂わせている。Instagramもぜひチェックしてみて。
泉さんの世代(1989年生まれ)でも、スーツって楽しいですか?

 楽しいですね。なんというか、レゴブロックみたいに組み立てる感じがいいんですよ。

レゴ(笑)? それは論理的にパーツとパーツを組み合わせるみたいな意味で?

 あれって説明書通りに組み立てる段階と、それをバラして自分流に組み立てる段階があるじゃないですか。ただ、逸脱しすぎると格好悪くなることもある。そこらへんが共通しているような気がするんですよ。

ルールなき時代に、あえてルールを楽しむみたいな感覚なんですかね?

 そうですね。ポケットチーフひとつとっても、挿したほうが格好いいときもあれば、そうじゃないときもある。ルールで成り立っているからこそ、ルールを崩したときの格好よさが際立ったりするから、奥が深いですよね。

泉さんのスーツスタイルは、マニアックな生地やディテールに加え、ちょっと攻めたコーディネートで、いつもハッとさせられる。ときには実験的なオーダーもしながら、プロとしてスーツという洋服の可能性を試しているのだ。
泉さんは、スーツの世界においてのご自身の役割って、どんなふうに捉えていますか?

 セビロとカジュアルの変な境界線をなくしたいですよね。かつてはセビロがデイリーウエアだった時代もあるわけだから、別に休日にジャケットを着たっていいじゃないですか。だからジーパンと同じような感覚で、皆さんに楽しんでもらえたらなと思っています。

それが普段の着こなしに反映されているわけですね。泉さんが勤めている「ファイブワン 銀座本店」は、若いお客さんが多いんですか?

 基本的には30代後半から50代までの、ある程度役職に就かれた方が多いとは思いますが、最近は20代も増えていますよ。そういう方々はカジュアルも大好きだから、ちょっと面白い服を求めて来られるんです。だから私も、そういうお客さまのセンスを汲み取れるように心がけています。あえてセオリー通りにフィットさせないのが格好いいことだってありますからね。そういう自分の活動が盛り上がることが、伝統的なスーツづくりの技術を残すことに繋がるんじゃないかな、と思っていますし。

究極のベーシック生地を
つくりたい!

確かに仕立て服の世界もかなり高齢化が進んでいるらしいですから、泉さん世代が盛り上がることは大切ですよね。・・・で、今さらなんですが、今日は何の話だったんですか(笑)?

泉 実は、うちのファクトリーが今年で創業60周年なんです。そこで何か、記念になるような生地をつくりたいと思いまして。

「ファイブワン・ファクトリー」とは紳士服づくりの本場である大阪・枚方市にあるオーダースーツの老舗ファクトリー。名前こそ明かせないがその技術は、あのブランドにも、あのショップにも頼りにされている。近年は自社ブランドの確立にも力を入れており、泉さんのような若いスタッフの感性を取り入れたものづくりを通して、新しいファンを集めている。
それはどんな生地なんですか?

 究極のベーシックです。具体的にいうと平織りタイプのオールシーズンもので、色はダークグレーとネイビー。ぼくたちが日本のファクトリーなので、同じく日本製の心のこもった生地を皆さんにお届けしたいと思っています。

それはどこで織るんですか?

 愛知県の尾張西部エリアから岐阜県の西濃エリアにかけての地域は、かつて「尾州」と呼ばれた、現在でも日本最大の毛織物の産地なんです。今回は、その中でも有名な機屋の「葛利毛織工業」(以下葛利)さんにお願いしようと思っています。

その理由は?

 最近、お客様によくお仕立てするんですが、葛利さんの「DOMINX(ドミンクス)」という生地は、他とは何か違うような気がしていまして。今回はその可能性に賭けたいと思っています。

「何か」ってなんでしょうね?

 実はその「何か」を探るべく、今度葛利さんの工場見学に伺うんです。そこで「ぼくのおじさん」にも、一緒に取材していただけないかなと思って。

ああ、そういうことですか(笑)! お安い御用です。「ぼくのおじさん」も工場見学は大好きですし、葛利毛織さんにも興味を持っていたので、これは渡りに船。ぜひともご一緒させてください!

次回は〝セビロ屋〟泉さんが尾州の葛利毛織へ! 

ファイブワン銀座本店

大阪の実力派オーダースーツファクトリー、ファイブワン。全国に8店舗ある直営店における、本店がこちらの銀座店だ。銀座というと格式が高そうだけど、泉さんのような若くてカジュアルにも精通したスタッフが在籍しているので、気軽に行ってみよう。

住所/東京都中央区銀座4―5−1 教文館ビル5F

電話/03-6263-0688(予約制)

営業時間/11:00〜20:00(平日)、11:00〜18:00(日曜)

休日/月曜日、木曜日

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