2026.3.20.Fri
今日のおじさん語録
「要するに、その土地で食うものを食え。/獅子文六」
名品巡礼
25
連載/名品巡礼

スペインから
ありったけの愛、込めて。
OFICIO STUDIOの
メリナさんが
革とバッグを通じて
伝えたいこと

文・写真/山下英介

「ぼくのおじさん」の編集人が2024年のスペイン特集を機に知り合った、マドリードのバッグ工房OFICIO STUDIOの職人メリナさん。今はガリシア地方の海が見える町に引っ越している彼女が、この春日本を旅しにやってきた! そして「ぼくのおじさん」のアトリエで、世界でも初となるトランクショーを開催してくれるという。ぼくは彼女の存在と、その手のひらから生まれる素敵なバッグを通じて、スペインの文化や職人の生き方の尊さを、みんなと分かち合いたいと願っている。

メリナさんが
日本にやってきた!

今まで世界中でたくさんの職人さんを取材してきたけれど、レザー工房OFICIO STUDIOをたったひとり営むメリナさんとの出会いは、ぼくにとって衝撃的なものだった。

2年前のインタビューはこちら!

知られざるスペイン産レザーの、たまらない味わい深さ。その素材を活かしながらもモダンなプロダクトに仕上げる、メリナさんの技術と設計力。そして何よりも、彼女の生き方・・・。

もともとメキシコ出身で建築を学んでいたというメリナさんは、大学院に通うために訪れたスペインで革との運命的な出会いを果たし、そのままマドリードに定住したという。

商業主義の罠に陥らず、職人として地に足のついたものづくりと暮らし方を望み、それを実践するメリナさんの人生哲学に、東京で小さな小さなメディアを営み、編集者という名の職人でもあるぼくは深く共感したのだった。

そして、このひとの哲学とバッグの素晴らしさを、読者のみんなにも知ってもらいたい!と強く願った。

ただ、記事を読めばわかる通り、彼女は自身のバッグが海外のショップで高値で販売されていているような状況は望んでいないし、マドリードの工房自体もクローズし、都会から遠く離れた北西部ガリシア地方の小さな村(マドリードからクルマで5時間!)に移転するという。これは現実的に難しいのかな・・・と諦めかけていた頃、メリナさんから1通のメールが。そこには彼女が2026年の春に日本を旅すること、そしてそのタイミングであれば、イベントを開催できるとのことが記されていた。

そしてこの3月。本当に来てくれるかずっと心配だったけど、彼女は神楽坂にあるぼくのアトリエを訪ねてくれた。しかも「ぼくのおじさん」のためにつくってくれたバッグやベルトのサンプルとともに・・・。

これらが「ぼくのおじさん」のためにつくってくれたエクスクルーシブなプロダクト! トートバッグ1型(ハンドルの長さはショートとロングが選べる)、リュックサック2型、ベルト1型というコンパクトなコレクションで、それぞれ2種類のレザーから選べるよ。

彼女が使うスペイン産レザーは、どれもぼくたち日本人が見たことがないような風合い、そして触れたことがないような触感なのだが、今回持ってきてくれた焦茶のレザーはとりわけ味わい深くて、いつまでも触っていたくなるようなものだった。

味わい深い風合いと、触ったときのしっとりとした手触りに心奪われる、オリーブオイルフィニッシュのレザー。今回のコレクションのために、特別になめしてもらったものだ!

聞けばこの革はスペインで最も古典的ななめし技術を駆使する職人がつくったもので、彼は屠殺場に現金を持ち込んで皮を引き取り、毛を剥ぎ、革にするまでの全工程をひとりで手がける極めてレアな存在なのだという。そしてこのしなやかな風合いは、スペインの名産品であるオリーブオイルを使うことで生まれたものなのだとか。

メリナさんは、スペインレザーの中でも国内のみで消費されているタンニンなめしのレザーを求め、ひとりクルマを駆ってスペイン各地のタンナーを旅している。そうした革はたいてい馬具用に使われているため、価格も安価でなおかつ肌にも優しいのだとか。
こちらが焦茶のレザーがつくられているなめし工房。親の跡を継ぎひとりで奮闘する職人さんで、かなりユニークなキャラクターみたいだ。彼のことを話すと、メリナさんは笑いが止まらなくなる! この動画はまさに彼が革にオリーブオイルを塗りこんでいるところ。食用には向かない品質のオイルが使われるという。タンニンなめしはエコなのだ。

「この模様、まるでタイガーみたいでしょ?」

「このギュッギュッという音が、タンニンなめしの証拠なのよ!」

革やなめし職人の話をしながらバッグを触っているときのメリナさんは実に嬉しそうで、この人は本当にスペインの革を愛し、その源である動物たちに敬意を抱いているのだな、と思い知らされる。

その愛情はもちろんプロダクトにも反映されていて、彼女がつくった商品を撮影していると、デザインや構造の目的が〝革の魅力や特性を活かすこと〟一点に絞られていて、そこにデザイナーのエゴがまったく介在しないことがよくわかる。

いわゆるラグジュアリーブランドが考える「一流のレザー」とは、えてして表面の風合いを均一に整えたもので、その価値観においてはキズや血筋などは隠すべき存在であり、ときには廃棄されてしまうこともある。しかしメリナさんがつくるバッグにおいては、それらは動物たちが生きた証であり、むしろ誇るべき要素。キズやシワも魅力的に見えるプロダクトをつくれば捨てる必要なんてないし、無駄なコストだって抑えられるよね?

メリナさんが工房から届けてくれた写真の数々。もともと建築の道を志していたこともあり、そのものづくりは極めて緻密かつ構築的だ。

ただ、そんなスペインの皮革文化の歴史を感じさせる素材を使いながらも、デザインそのものはモダンでスタイリッシュという点が、OFICIO STUDIOの真骨頂。メリナさん本人が「エルゴノミックデザイン」というとおり機能面も万全で、ぼくはこの2年バッグや手帳などを愛用しているが、とても使いやすく、もはや手放せない存在になっている。

ラグジュアリー雑誌業界で長年働いてきたぼくは、メゾンブランドのバッグだってたくさん持っているけれど、メリナさんがつくるバッグの完成度は、ひいき目を抜きにしても、それらに全く引けをとっていない。まあ、価値観が全く違うから比べるだけ野暮なんだけど。

しかもそれらのバッグが円安の影響もあり異常な高騰を続ける中、メリナさんのバッグは地元のひとでも買えるリーズナブルな価格を貫いているから嬉しくなってしまう。

現代の社会では手づくり品と高級品はイコールになりつつあって、おそらくその傾向は今後も進んでいくんだろうと思う。ただよくよく考えてみたら、かつての世の中にはリーズナブルな手づくり品というものはたくさん存在したはずだ。どちらが正しいということではなくて、それはブランドやつくり手側の人生観の問題なんだろう。メリナさんが選んだのは後者だということだ。

今回のトランクショーを開催するにあたっても、メリナさんはぼくに革の価格と工賃を包み隠さず教えてくれ、その上で「手に取りやすいリーズナブルな価格にしてほしい」とリクエストした。そこには「旅費」は載せられていない。つまり今回のトランクショーは、いわゆるビジネスを目的にしていないから実現できたものなのだ。

そうはいっても関税や輸送費もかかるので、どうしてもスペインでの販売価格よりは高額になってしまうわけだが、だからこそ彼女は既存のデザインではなく、ぼくのアトリエだけで販売するためのエクスクルーシブなバッグを、わざわざつくってくれたというわけだ。つまりメリナさんはひとつのバッグに〝ふたつの価格〟が存在することを好まない。本当に嘘のないひとなんだなあ。

滞在先の東京では「ぼくのおじさん」で紹介した東日暮里の銭湯「帝国湯」を訪れたり、ぼくのアトリエ近くの定食屋さんでカツカレーを味わったり、観光地化されていない〝本物の景色〟を楽しんでいたメリナさん。この記事が公開されている頃は、地方のものづくりを見学しているようだ。楽しんでくれているといいな。

編集人行きつけの洋食屋さんや谷中の「松野屋」さん、そして観音裏の「曙湯」を楽しんだメリナさん。ぼくたち日本人なら見過ごしてしまいそうな、なんでもない東京の風景こそが、彼女にとっては実に新鮮かつ慈しむべき存在なのだ。

そして3月26日に東京に戻ったら、27〜28日にかけて神楽坂の「Atelier Mon Oncle」でトランクショーを開催、というスケジュールを予定している。

東京で矛盾にまみれた毎日をあたふた迷いながら過ごしているぼくは、メリナさんの矛盾なき軽やかな生き方に、心から憧れている。彼女がつくったバッグに触れるたびに、遠く離れたスペインの土地で懸命に暮らす職人たちの営みと、動物たちの貴重な命の鼓動、そして人と革とが培ってきた歴史の厚みを感じて、胸が熱くなるんだ。

ぼくは自分の記事やアトリエを通して、この人のバッグとその思想をみんなに紹介できる立場にいることを、この上なく幸せに感じている。

「ぼくのおじさん」をやっててよかったな。

みなさん、もし興味をもってくれたら、ぜひ来てください。

OFICIO STUDIO
奇跡のトランクショーの
ラインナップを紹介!

さて、ここからは今回のトランクショーの内容をご案内しようと思う。

「ぼくのおじさん」のアトリエで注文を受けるのは、上写真に掲載した4つのバッグと、ベルト1モデル。こちらを2種類の革(下写真)から選ぶことが可能だ。

気になる価格については、記事の最後にだいたいの目安を掲載しているので、当日店頭でご確認ください。

今回のトランクショーに向けて、メリナさんがタンナーといっしょに開発してくれた新しいオリーブオイルフィニッシュのレザー。コシはありながらも、しなやかでしっとりとした風合いだ。
上写真とは異なるタンナーでなめされた、こちらもまた味わい深いレザー。牛革だが、ややコードバンに近い光沢感と質感をもつ素晴らしいレザーだ。こちらの革に刻まれた大きな模様は「トラ」といわれ、動物のシワに由来する。メリナさんによると、この場所はちょうど首の部分にあたるらしい。


使い勝手抜群の
トートバッグ

サイズは縦30㎝、横44㎝、マチ11㎝くらい(適当に計測)。しなやかな革を使っているが、意外にも自立してくれるのでとても使いやすい。ハンドルの手なじみも抜群だ。

長短ふたつのハンドルから選べるトートバッグ。これはメリナさんと編集人がディスカッションを重ね、東京のライフスタイルにもっともマッチしそうなデザインとサイズ感に仕上げてもらった。決して大きくはないが、A4サイズの雑誌やPCを横にも縦にも収納できて、さらにコンパクトカメラや手帳を入れて持ち運べる、日常使いにぴったりのバッグだ。ぼくはすでに毎日使っているのだが、本当にいいよ、これ!


バックパック
〝WALKER〟

サイズは縦35㎝×横33㎝×マチ15㎝(適当に計測)。開口部のサイズは調整できる。

お次は普段使いしやすいサイズのリュックサック〝WALKER〟。コンパクトといってもA4サイズの書類や13インチのMacBookなども収納できるし、日常生活で不足を感じることはないと思う。メリナさんが今回の旅に使っているのもこのバッグだが、実にいい雰囲気だよね?


バックパック
〝SAILOR〟

サイズは縦40㎝×横43㎝×マチ25㎝(適当に計測)。それなりに大きなサイズだが、持ってみると意外と軽い。それにしてもよく考えられた構造だなあ。

こちらは大迫力のバックパック〝SAILOR〟。文字どおりセーラーバッグをモチーフにしたモデルなのだが、これだけの要素をステッチをほとんど使わずまとめあげていることに驚かされる。革の風合いを生かすためでもあるが、この緻密な構造とデザインが、OFICIO STUDIOのバッグに感じるモダンさの秘密だと思う。

その収納力や意外なほどの軽さに加え、背負ったときのボリューム感と存在感が素晴らしい。これならいろんなスタイルに合わせられそうだ!


使い込むほど
味が出るベルト

幅は約3㎝で、バックルは真鍮製。サイズは5㎝刻みでお好み次第。

最後にご紹介するのが、いたってベーシックなベルト。決して特殊なデザインというわけではないが、使い込むほどにいい風合いに育っていくことは間違いない。メリナさんが使っているベルトが、まさにその証拠!

以上がぼくが惚れ込んだ、OFICIO STUDIOの〝世界初〟トランクショーのラインナップ。メリナさんの写真を見ればわかるとおり、どれもユニセックスで使えるデザインかつサイズ感だから、女性にもおすすめしたい。

メリナさんの創作環境やポリシーを考えると、ぼくたち日本人がOFICIO STUDIOのバッグを実際に手に取って購入できる機会は、おそらくかなり稀だと思う。だから時間さえ許せばぜひアトリエで手に取って、そのリアルな風合いを確かめてもらいたいな。レザープロダクトが好きな人も、そうでない人も、きっとメリナさんのバッグからは、なにかを感じられると思うから。

OFICIO STUDIO
トランクショー

【場所】

Atelier Mon Oncle


住所/東京都新宿区水道町1-9 しのぶ荘(地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩4分、地下鉄有楽町線江戸川橋駅から徒歩6分程度)



【開催日時】

3月27日(金曜)12:00~19:00

3月28日(土曜)12:00~19:00



【価格について】
詳細は店頭にてご確認ください。
トートバッグで5万円台、リュックサックの小が6万円台、大が8万円台、ベルトが1万円台後半(すべて税抜)を目安としております。 


【納期】

約3ヶ月。ご自宅まで配送させていただきます。



【予約】

不要。ご都合のよいお時間にお越しください。


※手狭なアトリエゆえ、お待たせしちゃったらごめんなさい!

【決済方法】

クレジットカード・現金



【イベントのお問い合わせ】

info@mononcle.jp
もしくはDMにてお願いいたします。
※もし遠方で当日来られないけれど、メリナさんのバッグをどうしても手に入れたい!という方はご連絡ください。

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