2025.8.6.Wed
今日のおじさん語録
「人間は一人では生きることも死ぬこともできない哀れな動物、と私は思う。/高峰秀子」
名品巡礼
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連載/名品巡礼

これは革靴?
スニーカー?
懐かしいのに新しい
謎の靴ブランド
MINEZO SPORTS SHOES

撮影・インタビュー/山下英介

革靴とスニーカーの融合・・・。なんて今どきありふれた表現だけど、このブランドにおける〝融合〟は、技術もルックスも段違い。はっきり言ってそこらのレザースニーカーとは、較べものにはならないぞ! ここでは「ぼくのおじさん」の編集人が出会った驚きの凄腕職人、廣瀬友和さんが手がける「MINEZO SPORTS SHOES」の全貌を大公開! 

スニーカーが
〝革靴〟だった時代

東京都葛飾区のもともと薬局だった場所に工房を構える廣瀬友和さん。学生時代は自転車や陸上競技などのスポーツを愛好し、弘前大学の生物学科を卒業後、化学繊維の会社「小松マテーレ」に就職したという異色の経歴をもつ職人さんだ。いつしか革靴の魅力に取り憑かれた廣瀬さんは、靴専門学校を経て製靴会社「セントラル靴株式会社」に就職後、独立する。その経歴は見事に、今の仕事に生かされている!
今日は「MINEZO SPORTS SHOES(ミネゾウ スポーツシューズ)」のデザイナー兼職人を務める、廣瀬友和さんの工房にお邪魔しました! しかし、工房を見渡すとものすごい数のヴィンテージシューズが・・・。これが廣瀬さんがつくる靴のルーツというわけですか?

廣瀬 はい。ぼくは19世紀後半~1970年代くらいまでのヴィンテージアスレチックシューズにインスパイアされた靴をつくっています。

ヴィンテージシューズにインスパイアされる職人さんは数あれど、廣瀬さんが注目するのはいわゆる〝革靴〟とはひと味違う、スポーツやアスレチックシューズというジャンル。「ほぼ病気(笑)」というほどのコレクションを所有している。
ヴィンテージアスレチックシューズ・・・。それってスニーカーの原点みたいな感覚なんでしょうか?

廣瀬 そうですね。テクノロジーが今のように発展する前の運動靴って、デザインが機能に直結していたんです。当時の人たちは限られた素材や技術を最大限効率的に活用して、それぞれのスポーツに対して一番合理的なアプローチができる靴をつくっていました。それに対して現代のスニーカーって素材が発達しすぎて、デザインと機能の関係が弱くなっているんですよね。

そもそも合成素材がない時代、スポーツシューズだって靴職人が革などの天然素材でつくっていたわけですからね。

廣瀬 それこそアディダスとプーマのルーツである「ダスラー兄弟商会」も、お父さんは普通の革靴職人でした。その下地があったうえで、スポーツシューズの製造を弟のアドルフが1922年に始め、1924年に兄のルドルフがビジネスに参加することで同社は創業したんです。彼らのような職人がつくっていたスポーツシューズは、まさに革靴の製法にそれぞれのスポーツに対応するギミックを付け加えたものでした。

20世紀初頭から1950年代頃の各国のサッカーブーツのコレクション。1950年代まではサッカースパイクはくるぶしが隠れるブーツが一般的だった。
スパイクは革を積み重ねてつくられている。その形状から、おおよその年代が読み取れるという。
もちろん日本製のスポーツシューズも。こちらは1950~60年代頃の日本製野球スパイクのソール。唐草模様の飾り鏝(こて)は、まさに革靴職人の仕事である。
そこから現在のスポーツシューズには、どのようにつながっていくんですか?

廣瀬 明確な境目はないんですが、やはりナイロンに代表される軽量で高強度な合成繊維や、合成樹脂の発展によって、1950年代から徐々に変わっていきます。アシックスの前身となる鬼塚株式会社が、初めてスポーツシューズにナイロンを採用したのが1950年代のこと。そして同社の製品を北米で広めたナイキは、70年代にエア クッショニングを靴に採用しました。そうした進化を経て、1980年代には本格的にテクノロジーの時代に入っていくんです。

オニツカタイガーのマジックランナー。つま先とサイドの穴から着地時に熱を排出することによりマメの発生を抑えることを可能にした。60~70年代の大ヒットモデル。
スポーツカルチャーが大衆に広まって、ファッションにもなっていく歴史とリンクしているということですかね?

廣瀬 そうですね。1960年代までは、アスレチックシューズそのものが限定された用途のものでしたから。今みんなが履いているようなスニーカーが生まれたのって、一般大衆がスポーツを楽しむようになって、スニーカーを安価に大量生産する必要が生まれた、それ以降のことなんですよ。

なるほど~! 

廣瀬 加えていうと、もともとアスレチックシューズの世界って、アディダスやプーマのように革靴メーカーから始まったブランドと、コンバースやケッズのようにゴムメーカーから始まったブランドと、大きくふたつに分かれるんですよ。

本来両者のものづくりの特性は、全く異なるものでした。前者のような革靴由来のブランドは、耐久性が求められ足を保護する必要性が高い、サッカーや野球などの屋外競技をメインの市場に捉えたものです。それに対して後者のようにキャンバスアッパーにゴムソールを用いるブランドは、バスケットボールやテニス用の靴を主に製造していました。ちなみにスニーカーの語源となる「スニーク(忍び寄る)」は、ゴムソールの靴が由来です。

そんな両者が、技術の発達によって明確に交わるようになるのが1970年代のことです。ですからぼくがつくる靴はそれ以前、限られた素材と技術で靴づくりが行われていた時代のアスレチックシューズを参考にしたものなんです。

1940~50年代頃のコンバースのレスリングシューズ。「チャックテイラー」の名前がつく最初期のヒールラベル。もとバスケットボールの選手だった彼は、1920年代、営業の顔としてコンバースのシューズを広めた功労者である。

スニーカーと革靴の
長所をひとつに!

かといって、それらをレプリカ的につくろうとは思わなかった?

廣瀬 そうですね。実はぼく、もともとビスポークの靴職人をやりたかったんですよ。ただ日本には優秀な職人さんがとても多いので、同じようなブランドでは埋没してしまうとも思ったんです。そこで考えついたのが、〝痛くない革靴〟。痛みの原因になりがちなボールジョイントやつま先側はスニーカーに近く、甲まわりや土踏まず部分は革靴に近い、そんなふたつのよさを融合した木型をつくればいいんじゃないかということに、たどり着いたんです。そして、そんな木型に合う合理的なデザインとして、ヴィンテージのスポーツシューズを持ってきたという。昔からあったふたつの価値観を組み合わせて、今までにない新しい価値観を生み出す。それが「MINEZO SPORTS SHOES」なんです。

サイクリングシューズをモチーフにした『サイクリスト』。デュプイ社の上質なカーフや手の込んだ縫製技術によって、いわゆるスニーカーとは全く別次元の靴にアップデートされている! ちなみに木型は全モデル共通だが、8回は削りなおした自信作だとか。
ボウリングシューズのデザインをもとにした『クランカー』。載せ替える革次第で、その表情は大きく変わる。
短距離走用の靴を、継ぎ目のないホールカットで表現した『スプリンター』。
往年のベースボールシューズをモチーフにした「スラッガー」。つま先の補強と美しいシームレスバックが特徴。
サイドラインを特徴とした「ランナー」。ビスポークシューズを彷彿させるシームレスバックやピッチドヒールが美しすぎる!
左から本格靴のつくりとは異彩のコントラストを放つ、面ファスナーを使った『ランナー68』。ブラックレザーにホワイトのパイピングを施した『サイクリスト』。
〝スニーカーと革靴の融合〟という言葉はよく耳にしますが、「MINEZO SPORTS SHOES」の場合、その折衷の仕方がものすごくハイレベルというか。デザインもつくりもほかにはないですよね!?

廣瀬 そのあたりに関しては、1930~60年代のアメリカのヴィンテージドレスシューズに影響を受けている点も多々あります。単にスニーカーのアッパーデザインを革靴に載せ替えるだけではリプロダクトになりかねないので、革靴にしかない技術やディテールをそこに落とし込むことを大切にしていますね。

 廣瀬さんが所有するアメリカ黄金期のヴィンテージドレスシューズの数々。〝革靴〟という表現手法の中ですべてのTPOを賄っていた時代のデザインには、驚くべき自由度と技術が詰まっている。
英国ではなく、アメリカなんですね。

廣瀬 アメリカって移民の国なので、イギリスだけではなくドイツや東欧など、ヨーロッパ各国から職人がやってきて、20世紀半ばまでにたくさんのブランドをつくっているんです。なので最も豊かだった時代に、それらの国のビスポークシューズのいい部分を、大量生産のラインに乗せて打ち出していったのがアメリカ靴。出自によってデザインは異なりますが、そのバリエーションといい、今ではとても再現できないほど細かい縫製技術といい、本当に素晴らしいです。こうしたディテールをなるべく多く後世に残して、技術として伝えていけたらという思いもありますね。

左の2足は、イギリス製の1920~30年代頃の靴。右の2足は、共にアメリカを代表するドレスシューズメイカーのフローシャイムとナンブッシュの40年代頃の靴。運針やベンチレーションのデザインから歴史的背景が読み取れる。
1940年代のフリーマン。MINEZOでも採用しているカールエッジ(革の断面を内側に折り返してから縫製する手のかかる仕様)を始め、様々なアッパーの縫製技術を学べるという貴重な1足。
デザインもさることながら、縫製も本当にきれいだなあ···。あれ!? 廣瀬さんの靴って、スニーカーでよくあるセメント製法じゃなくて、ハンドソーンウェルト製法なんですか!? コバが全然張り出してないから、てっきり接着しているのかと・・・。
ヒドゥンチャネルの工程見本。ソールの革を包丁で薄く切り開き、出し縫いを掛けた後にもとに戻す。底面にステッチが出ないことにより、ドレッシーに仕上がる。

廣瀬 そうなんですよ。上から見た時にコバが張り出して見えないようにするのが結構重要なんです。これによって靴全体の印象が軽やかできれいにまとまるし、見る角度や合わせるファッションによって革靴にもスニーカーにも見えるという、このブランドならではの個性にもつながると思っていて。

懐かしいなとは思うけれど、実際にそんなヴィンテージシューズは存在しないという、絶妙なラインというわけですね。いやあ、こんな手間をかけたスポーツシューズは存在しないか・・・!
アスレチックシューズでは前代未聞のスキンステッチ! しかも異常に美しい。
小ぶりで収まりのよいヒールは、まるでビスポークシューズのよう。モデルによっては継ぎ目のないシームレスバックを取り入れるなど、見どころのひとつだ。
履き込んだ風合いもまた特別。

廣瀬 ドレス的要素の強い技法である、踵まわりのシームレスバックやピッチドヒールを採用しているのは、カジュアル由来のデザインとのバランスを取るためです。加えてバッシュ由来のトウシェルをスキンステッチで表現するような技術とデザインのバランスは、かなり検証を重ねて追求したものです。また、履き込んでいくとどんどんつま先が落ちてきて、ヴィンテージアスレチックシューズっぽい面構えになってくるんですが、それも魅力のひとつですかね。

さて、どんな服に
合わせようか?

大変不躾な質問ですが、廣瀬さんがつくる靴はどんな方が買っていくんですか?

廣瀬 靴好きよりも洋服好きの方が多いかもしれません。それも少し前まではヴィンテージ古着好きの方が多かったのですが、最近は様々な趣向の方にご注文いただいています。最近は海外でもトランクショーをやらせてもらっていますし。

スニーカーのようでもあり、ビスポークの革靴のようでもあるという、ほかにはないオーラを放つ「MINEZO SPORTS SHOES」の靴。個性的ではあるがあくまでクラシックなので、合わせる洋服は選ばない! 特にワイドパンツとの相性は抜群だと思う。いわゆるビスポークではなく、既存の木型も用いたMTM(メイド・トゥ・メジャー)システムで、オーダー時には廣瀬さんが綿密にフィッティングして、ジャストサイズをつくってくれる。
当然アメカジっぽいスタイリングにはハマると思いますが、そうでなくても今日廣瀬さんが穿いているようなワイドパンツには似合いそうですよね!? マルジェラみたいなモードっぽい着こなしに合わせても、ビスポークスーツにハズしで合わせてもいいし、スタイリングは全く選ばなさそうですよね。

廣瀬 そうですね。ただ、今はオーダー価格で16万円くらい(税込¥162,800~)からなので、それが買える方という前提にはなってしまうのですが・・・。アスレチックシューズ=安価という固定概念もあるので高価に感じがちだとは思うのですが、足の採寸後にはフィッティングサンプルをベースに木型の調整も無料でしているので、実際完成した靴を履いていただければ満足度は高いと思います。

スニーカーと捉えてしまうと確かに高いかもしれないけど、そういう靴とは全くレベルが違いますもんね。いやあ、アッパーの縫製はものすごく細かいし、使っているレザーも一級品だし、しかもハンドソーンウェルトの手製靴でこの価格なら、今どきは安いと言っていいんじゃないですかっ!?

廣瀬 アッパーの縫製は妻がやってくれているので、なんとか今のところこの価格で収まっています(笑)。それでもほとんど全ての工程を外注に出さずに、この工房でつくっているので、今は納期も7~8ヶ月くらいお待ちいただいています。

それじゃあ廣瀬さん、「MINEZO」のものづくりの凄まじさをもっとみんなに知ってもらうために、「ぼくのおじさん」のアトリエで展示イベントをやりましょうよ! 受注会と合わせて、廣瀬さんが集めたヴィンテージのスポーツシューズや、アメリカンドレスシューズもいっしょに展示して。

廣瀬 それはいいですね! たぶん日本でこれだけヴィンテージアスレチックシューズを持っているのは、博物館や資料館を除けばぼくくらいしかいないと思いますから。スポーツごと、国ごと、時代ごとにまんべんなく集めているので、見ているだけでも勉強になるし、面白いと思いますよ! 

・・・というわけで九段下にある「ぼくのおじさん」のアトリエ「別館」で、廣瀬さんが集めたヴィンテージアスレチックシューズの展示会と、「MINEZO SPORTS SHOES」のトランクショーを同時開催します! ぜひ気軽にお越しくださいね。

MINEZO SPORTS SHOES
トランクショー&ヴィンテージ
アスレチックシューズ展示会

【場所】
Atelier Mon Oncle Annexe
住所/東京都千代田区九段南2-2-8 「松岡九段ビル」201号室

※地下鉄九段下駅2番出口から徒歩4分程度

※靖国通り沿い、靖国神社の真向かいにあるビルの一室です

【開催日時】

⚫︎8月15日(金曜)12:00~19:00

⚫︎8月16日(土曜)12:00~19:00
⚫︎8月17日(日曜)12:00~18:00

※都合により直前に変更する可能性もありますのでご了承ください。

【展開商品】

⚫︎MINEZO SPORTS SHOESのオーダーシューズ(受注生産)

※ヴィンテージシューズはご購入いただけません

¥162,800(税込)~
※レザーや仕様のオプションなどで価格は変動いたします

【納期】
ご注文から約7~8ヶ月後に納品させていただきます。

【入場】
予約優先
※フリーのお客様も大歓迎いたしますが、シューズのご注文をご検討されている方は、なるべくご予約いただけるとスムーズなご案内が可能です。


【決済方法】
クレジットカード/現金

【ご予約·イベントのお問い合わせ】
info@mononcle.jp
もしくはDMにてお願いいたします。




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