2023.2.8.Wed
今日のおじさん語録
「字は病や毒から分泌される。そして、人を病ませ、毒する。/開高健」
お洒落考現学
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連載/お洒落考現学

〝夢の洋服商〟
「國立外套店」が
ヴィンテージウエアに
秘めた思い

撮影/山下英介

2022年の10月に「ぼくのおじさん」のアトリエでポップアップストアを開催した、オンラインの古着店「國立外套店」。古きよきヨーロッパ服に対するほとばしるような愛情で、一部では話題を集めているこちらの店主に、インタビューを敢行。彼はどんな思いでヴィンテージウエアを商っているのだろう? そして、ぼくたちはどうして今、ヴィンテージウエアに惹かれてしまうのだろう?

ヴィンテージは
ただの懐古趣味じゃない!

なんだか最近、洋服にワクワクしない。

そんなふうに思っている人は意外と多いんじゃないだろうか? これほどまでに安価でお洒落で着やすい洋服が世の中に溢れている今、不思議に思う人もいると思うけれど、そのこと自体がなんだかつまらなく感じてしまっているわけだから、人間って面白いよね。

個人的な話で恐縮だが、「ぼくのおじさん」の編集人が青春時代を過ごした時代は、まだまだネット文化の夜明け前。海外は文字通り〝異文化〟だったし、海外から輸入される洋服は「インポートもの」と呼ばれ、崇め奉られていた。しかし今のように日本人向けにアレンジするような感覚はなかったので、インポートものは今よりずっと手強かった。そもそもほとんどの日本人の若者にはサイズが大きかったし、バブアーは今よりもずっとベタベタで臭かったし、スコットランドのカシミアニットはこんなに柔らかくなかった。そうした手強い洋服を格好よく着こなすためには、ファッション雑誌を読んでいるだけではダメで、お洒落な兄貴や行きつけのショップスタッフによるアドバイスが必要だった。そういう存在がいるか否か、というのが80年代〜90年代の若者にとってはおおきなテーマだったのだ。

話をもとにもどすと、海外の洋服って料理と同じで、ひとつの文化だと思うのだ。どうしてアメリカのTシャツやスウェットは、こんなにも丈夫で、サイズが大きかったのか? どうしてアランセーターの手触りは脂っこいのか? どうしてナポリのスーツは手で縫われているのか? ひとつひとつの洋服には、それが生まれた社会的な意味と必然性がある。もちろん、それらの〝意味〟は現代の東京の街で着るためには少々邪魔なのだから、環境に合わせて洗練させていくのは必然。でも、コピー&ペーストを繰り返し意味の失われた洋服が街にあふれ、そのオリジナルにまで影響を与えるようになった現代、ぼくたちは無性に、今はなきその源流に惹かれてしまうのだ。それはただの懐古趣味とはちょっと違うんだな。

「國立外套店」って
何者なんだ?

そんなことを考えている「ぼくのおじさん」が出合ったのが、オンラインでヴィンテージウエアを販売している「國立外套店」だった。「くにたちがいとうてん」? それとも「こくりつがいとうてん」? なんて読むのかも分からない店名と、オンラインストアだというのに古色蒼然とした佇まい。こちらが扱っているのはヨーロッパの希少なアウターウエアが中心なのだが、商品写真に添えられたキャプションがまたすごい。

ユーロ服史上最も特権的個体として最早説明不要とさせていただきたい名門アルニスによる聖衣「フォレスティエール」。とある画匠のアトリエに眠るアンティークパレットを想起させる入り組んだ色合い、あまりに思想的な鶯色。ミュージアムピースに相応しきタイムレスなるウールフランネル。価値を雲上レベルに高めるデッドストッククラスの極上品。メンズウェアを愛する全ての紳士のための聖域。

(アルニスのフォレスティエール)

アルマーニ御大による最もソリッドでパーフェクトな式典服。バブル期に共鳴する男性優位主義的逆三角構築。極上ヴァージンマテリアルによる至高ドレープ感。ネイビーを探究し尽くした末に到達した深淵なるオールモストブラック。メンズウェアを愛する全ての紳士のための聖域。

(ジョルジオ アルマーニの1970年代のネイビーブレザー)

・・・あまりにも主観的ゆえ、情報誌化したファッション雑誌では到底〝通らない〟文章。でも情報やら生産の舞台裏なんてネットで調べればいくらでも検索できる今、ぼくたちは改めて洋服に夢を見たい。むしろ積極的に酔わせてほしいわけだから、主観大歓迎。実際問題「國立外套店」が扱っている洋服の数々は、創業者やデザイナーの情念が込められた〝本当の意味での〟オリジナルなわけだから、そうした表現もあながち大袈裟ではないのだ。

そんなシンパシーを抱いた「ぼくのおじさん」は、「國立外套店」にコンタクトを取り、2022年の10月に、わがアトリエにてポップアップストアを開催するに至った。アルニスをはじめとする、今まで見たこともないような珍品が多数出品されたその空間には、たくさんの数寄者たちが集まったのだが、そのタイミングで、コアなヴィンテージ好きの間ではちょっとした話題になっているこちらの店主に、インタビューをさせてもらった。以下はその模様である。

洋服を〝あるべき場所〟に
届けるために

まずはあなたのお名前を教えてください。

佐藤閑(さとう・かん)。42歳です。

そもそも「國立外套店」は、なんて読めばいいんですか? なぜそういった名前なんですか?

「ナショナルコートショップ」とお読みください。字面は印象に残り、語感は残らないものがよかった。ぼんやり浮かんだワードを検索ウィンドウに連ねてもらえれば本懐です。

あなたは今までどんなことをやっていましたか?

臨床心理学専攻の大学院中退後、大手通信会社にてWEB事業に10年間勤務。2013年よりARTS&SCIENCEに入社。ショップスタッフをしながら、バイヤーやプレス、WEBディレクターを担当。退職後は国内ブランドの商品企画や撮影ディレクション、WEBプロモーションなどをサポートしながら、フリーランスとして現在に至ります。ヴィンテージコレクターとしては、洋品、骨董や古書、アンティーク家具などが蒐集の対象。好奇の移ろいを観察しながら、生涯の愉しみとしています。

ネットでヴィンテージウエアを販売している理由は?

私も骨董趣味をもつ人種の端くれとして、どうやら例に漏れずパソコンもインターネットも好きではありません。

それでも、メゾンブランドの特性でしょうか、ワンオーナー品でも状態のよいものが多いです。大切にお手入れされているもの、箪笥の肥やしになっているもの、無論素材自体の質の高さもある。コンディションに過度の不安なくご案内できるという点では、ネット販売との相性のよさを感じることはあります。

実店舗もいずれは実現させたいと思っていますが、しばらくは行商やポップアップで人前に出る流浪の喜びを噛み締めていたいです。全国各地からのオファーもお待ちしています。

現在扱っているようなヴィンテージウエアの魅力とはなんですか?

持ち主を失くしたもの、あるいは在るべき場所にないものは、正気が失せたような構えをしています。独自の目で観察して異彩を感じ取り、手を差し伸べて輝きを放つまでの一連の行為に面白さを感じます。

どんなルートでヴィンテージウエアをコレクションしているのですか?

フランスものを多く扱う当店ですが、フランス本国のルートから入手することは稀です。彼の国では魅力的なものが然るべき店に収まり、普遍的な評価が与えられている。素晴らしい倫理観ですが、少々退屈です。

現在は、ヨーロッパのコレクターネットワークから譲り受けることが大半です。趣味のいいコレクターが所有したものには正気が宿っています。彼らは博識で、そこから得たインテリジェンスは固有の付加価値になります。

特に気に入っている個体やブランドはありますか?

アルニス。

身だしなみの礼節をわきまえたつもりでいても、アルニスに袖を通すと無作法者の心地がして落ち着かない。アルニスは人種も身分も年代も異なる世界です。下手に手を出すと文化盗用の恐れがあるので気をつけるべきです。

絶対に売りたくないとっておきはありますか?

とっておきはポップアップなどで展示しています。ご購入もいただけますよ。職業柄、ものへの執着は泣きどころです。

注目している、これから力を入れていこうと思っているジャンルはありますか?

女性物のヴィンテージウエア、宝飾品

・・・ご想像のとおり、「國立外套店」の店主はなかなか一筋縄ではいかない人物ではあるものの、その実像は穏やかで物腰柔らかな長身の紳士。装いの趣味はInstagramにアップされているイラストのキャラクターそのままだ。

もちろんその目の奥には、数寄者特有の狂気を宿らせているが、だからこそ彼が扱う商品は面白いし、そこにはロマンがある。オンラインストアが活動の中心ゆえ、読者の皆さんがお会いする機会はそう多くないだろうが、今後はポップアップストアに力を入れていくと語ってもいたので、ぜひ一度会ってみてほしい。直近でいうと12月9日〜11日にかけて、中目黒の「みどり荘」という施設で開催されるとのことだ。

彼が蒐集してきた、古ぼけたルイ・ヴィトンのトランクから取り出された宝物の数々は、あなたをもう一度、洋服の面白さに目覚めさせてくれるはず。

ここにはフィレンツェの匂いがする〝本当の〟グッチがある。

そして、今はもう嗅ぐことも叶わなくなった、むかしのパリの匂いを漂わせた〝アルニス〟もある。

今、ぼくたちが纏いたい洋服は、ただの便利なプロダクトやマーケティングから生まれたお洒落のパーツじゃない。世界各地の名もなき人々が、その暮しの中から連綿と繋いできた文化であり、天才たちが産み出した芸術なんだ。

国立外套店 at MIDORI.so Gallery 

国立外套店の今年最後となるポップアップストアが、12月9日〜11日にかけて、中目黒のギャラリー「MIDORI.so Gallery NAKAMEGURO 」にて開催される。

なんと今回は、アルニスだけでも20点以上出品予定という、とんでもないイベントになりそうだ。フレンチ古着マニアたちよ、震えて眠れ。

 

詳細は国立外套店のインスタグラムにてご確認を。

会期/12月9日〜11日

場所/MIDORI.so Gallery NAKAMEGURO(東京都目黒区青葉台3-3-11)

 

 

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