

この一杯のために、熊本へ。
あったかくて、優しくて、
とことん厳しい!
「珈琲アロー」マスターの
珈琲人生一代記
撮影・文/山下英介
編集人が「ぼくのおじさん」を創刊するとき、真っ先に紹介したかったのが熊本にある喫茶店「珈琲アロー」のマスターこと、八井巌(やついいわお)さんの存在だ。今やその名は海外にまで鳴り響いているけど、マスターが淹れる珈琲は味も見た目も珈琲の概念を超越している。そしてマスターご本人のお人柄もまたすごいんだ・・・。最近では勝手に動画をアップしている人も多いけれど、「ぼくのおじさん」としてはそこらの社長や大臣よりずっと偉くて二枚目俳優よりもずっとカッコいいこのおじさんの存在を、もっとみんなに正攻法で伝えたい! 簡単そうで実はかなり難しい、そんな願いが叶った濃度100%のオフィシャルインタビューを、ゆっくりと飲み干して。
珈琲の色って
本当に「黒」ですか?

今日は念願だった八井巌マスターへの取材ができて光栄です。おそらくマスターはWebマガジンという概念をご存知ないだろうし、マスターの熊本弁を文字起こしする自信がないという理由で(笑)長年申し込めていなかったのですが、娘さんのおかげでついに実現しました! 今日はよろしくお願いいたします。
マスター じゃあつくりますね。いいですね?
はい、ぜひお願いいたします!






マスター ・・・ハア、ハア。これはやっぱまあ、苦しかですね。

いやあ、一杯入魂ですね!
マスター 終わったらお客さんのほうもハア、となっとる(笑)。私はただ珈琲を淹れるばかりじゃなかです。珈琲そのものを知ったうえでつくってますから。気を入れて。口に入れるものが一番大事ですから。
うん、やっぱり美味しい。でもマスターの珈琲は、今までぼくたちが飲んできた珈琲とは全く概念が違いますよね? 最初に飲んだときは驚いたもんなあ。
マスター うちの珈琲は、エチオピアだろうがブラジルだろうが、珈琲を絶対飲めないっていう人のほうが5杯も6杯も飲むんです。逆にもとから珈琲を好きで飲んでいらっしゃる方からは、「え、これが珈琲ですか?」なんて言われることもあります。
その反応はよくわかります(笑)。そもそも色からして違いますから。


マスター 濃ゆくて苦くて砂糖ば入れて飲むとが珈琲だけん、それだけの認識しかないんです。専門家と称する方々も。ただつくって商売してるだけなら儲かるんですよ。でも私は、絶対に珈琲を飲めない人が飲める珈琲をつくるって、最初から信念をもってここにいます。人間にとって一番大事なのは、口に入れるものなんですから。みんなそれに気づいてないんですよ。私がこの珈琲をつくって広めた頃に、色だけ似てるアメリカンという珈琲が出てきました。これは日本という国の恥。
マスターの珈琲は、ただ薄いアメリカンと違って、お茶のように体に沁みていくというか、体が潤うような感覚になりますよね。
マスター うちの珈琲は弱アルカリ性だけん、内臓に害を与えませんから。この間テレビで、珈琲を飲めば食欲が出るって言っとったけど、どういう珈琲を飲めばいいかは絶対にやらん。その違いはあんま知らんわけですよね。
確かにそうですね。
マスター こないだ東京のNHKがいらっしゃって、うちの珈琲を分析されましたよ。
おー、データによるとポリフェノールというかクロロゲン酸の数値が突出しているんですね! やっぱりそれって浅煎りだから豆の成分が生かされているということなんでしょうか? でも普通浅煎りって酸味が強くなりがちなのに、マスターの珈琲はぜんぜん酸っぱくないのが不思議です。これって一体・・・。
マスター (無視して)日本はもともと珈琲じゃなかけん、お茶の文化です。だからお茶ば知ってなければ、よその国で生まれた珈琲のこともわからんですたい。私は5000円のお茶ば一度出して捨てるように、珈琲をたいがい捨てて捨てて・・・ここまで来たんです。
やっぱりこの珈琲を生み出すまでには相当な努力があったんですね。
マスター 今つくってる人はぜんぜん勉強しない。捨ててこん。それが珈琲だと思い込んでるから、ただ続けているだけ。商売ですから、それはそれでよかですたい。うちの珈琲は普通の喫茶店じゃ採算取れんですから。でも、どんな天才でも健康でなかったら使いものにならん。だからうちはこれ一本に絞ってやってます。これがよくないものならば、すべて私の責任。
ケーキも軽食もここにはないですよね。
マスター ケーキば置くならこんな珈琲つくる必要なかです。今はつくっとる人がものを知っとらん。だいたい昔から〝琥珀色の珈琲〟なんて言葉を使っとるけど、琥珀の意味ば知らん。「珈琲は何色と思いますか?」なんて聞くと、黒とか言う。焦がさんと飲めん珈琲ばかり使っとれば儲かるんです。うちはこれ一本でずっとしてたら、世界中に近い国からお客さんが来よるです。
ああ、そう言ってるそばから海外のお客さんが。すみません、どの国から来られましたか?

韓国のお客さん 韓国です。私は初めて来たけど、カフェブログで有名ですよ。
マスター 世界中の珈琲を飲んできたというアメリカ人のふたり組が、ここで3杯飲んでくれて、この珈琲は世界中どこにもないと言っておられました。だからこの珈琲は世界でオンリーワン。
「アロー」の珈琲豆は、まるで生豆に見えるほど浅煎りですが、さすがに焙煎はしてるんですよね?
マスター してるていうか、焙煎がいっちゃん難しいですよ。
やっぱり一番の決め手は豆なんですか? 豆は開業以来変えていないんですか?

マスター 変わらなければ進歩なし。ずっと変わってきています。あのね、有名な絵描きさんの絵を見て、人ば出し切らんこの色をどうやって出すとだろうって聞きますか? それはなんですかってことは、自分で考えてください。
す、すみません! でもやっぱりマスターは、ご自身の珈琲が最高だと思いますか?
マスター 美味しい美味しくないは個人差があるけど、これが一番益があるとよ。
三島由紀夫を虜にした
琥珀色の珈琲

マスターは、もともとこのあたりの人なんですか?
マスター 生まれは熊本と八代の中間にある、今でいう宇城市というところです。
やっぱり子供の頃からこだわりの男だったんですかね?
マスター 魚獲るのが好きだったんですけど、オケに魚を入れておくと、水が少なくなると生命力の弱か魚は死んでいきよる。あれば見て「はぁ〜、これからは水だ」と。水に困っとらん熊本で、「水が売れる」って言い続けてきたから、頭が狂ったと思われてました。

その周囲の反応はなんとなく想像がつきます(笑)。確かに水が売れるなんて、1980年代後半頃からの話ですもんね。珈琲はもともとお好きでしたか?
マスター 好きでもなんでもない。私はお菓子づくりが専門だった。
あ、パティシエだったんですか? それがどうして珈琲の道に?
マスター ケーキばつくるために、当時熊本で有名な喫茶レストランだった「山小屋」というお店に行ったんですが、一番簡単って思っていた珈琲が一番難しいということにあとで気づいて。それで給料ばもらったら珈琲豆を買って、一晩中つくる練習をずいぶんしました。
珈琲の師匠はいなかったんですか?
マスター 師匠ですか(笑)。師匠はですね、教えてもらうとその人のつくり方にしかならない。ですから私が珈琲をつくるのは夜中、みんなに伏せて(※当時は住み込みだった模様)。マスターからは「もう3時すぎぞ、早く寝らんか」って感じで。私ははい、はい、と言いながら朝までつくっては捨てて、つくっては捨てて。そして朝になったらフルーツを切る練習。もうずいぶん練習しました。お菓子づくりもすごく勉強になった。

そんな試行錯誤の末に、現在の珈琲に辿り着いたと。
マスター 歌には「琥珀色の珈琲」と出てくるのに、なんで黒いかということに気づいたんです。お茶は安いものほど焦がさんと飲めん。うち(実家)の庭の松の木から薄い松ヤニば出ることを思いだして。
そうした一連の気づきをヒントにして、本当の「琥珀色の珈琲」が生まれたと! それで修行先を辞めて、このお店を出すんですか?
マスター そういう珈琲ば出そうと思っても、自分で店しないと誰もせんからね。お菓子の師匠からは「もったいなか」って言われたけど。
それで1964年、アローが創業するわけですね。最初からこの珈琲一本で勝負したんですか?


マスター いやいや、最初からこれだったら誰も飲みません。今の人もすごく不思議そうな顔してたでしょ? 表情見ればすぐにわかる。だから普通の真っ黒か珈琲よりかは薄い珈琲を出してた。無理もなかです。「これも珈琲ですか?」「なんで珈琲は黒かですか?」そうやって少しずつ話してわかってもらったとです。
確かにさっきの方は不思議そうでしたね(笑)。アイスコーヒーすらないわけですから、最初は苦労したんでしょうね・・・。

マスター 昔アイスコーヒーがなくてお帰りになったお客さんを数えたら、1日30人を超えてました。でもアイスコーヒーが冷たくて気持ちいいのは口だけで、体に入れば腸に悪い。暑いときこそホットば飲んだほうがいいんです。私は口に入れて体によくなかったら出さんです。どれだけ捨てて捨ててここまできたか・・・。
そういえば、珈琲嫌いだった作家の三島由紀夫さんも、アローの珈琲だけは飲めたと聞きました。
マスター 三島さんはここに座って「珈琲はいらん」と言うから「絶対私は三島さんには負けんから、ものば知らんで見らんの好かんの言わんでください。飲んでこりゃいかんと思ったら、金いらんから捨ててください」って。そしたら2口、3口飲んで「この珈琲だったらいい」って。えらい気に入ってくれて、すぐ新聞に載りました。それから何度も忍びで来てくれました。
それはすごい!
マスター 「遊びにおいで」って言うから訪ねて行ったら、お手伝いさんが「残念でしたね。先生はインドに行きました」って。一番最後に来られたのは昭和45年です。
まさに割腹自殺を遂げた年にも来られたんだ・・・。「アロー」にはそういう有名な方もたくさん来られるらしいですね。
娘さん でもうちの父は新聞しか見ませんから、以前タモリさんが来られたときも気づかなかったみたいです(笑)。
それはもったいなかったですね(笑)。でも、このお店は繁華街にあるというのに、不思議なオーラを放っていますよね? 夜でも変に騒ぐ人もいないし、みんな静かに珈琲を飲んで帰る。
マスター もともとここは人の通らん通りだったんですよ。10人に聞いたら全員に反対されたけど、雰囲気はお客さんがつくるもんだから、人が通らんところにするって。そしたらだんだん人が増えて、飲み屋街になった。
酔っ払いの人は来ないですか?
マスター うちには来んですね。私が追い出しよるから。まあいろいろあったですよ(笑)。



極限のワンオペ営業を
支えたものってなんですか?


珈琲そのものもすごいですが、今日私がもうひとつ伺いたかったのは、マスターのおそるべき営業スタイルです。元日から大晦日まで年中無休で朝の8時から深夜3時まで(徐々に短縮しており深夜3時までの営業は2011年頃まで。現在は19時閉店だが、それでも定休日はなし!)、たったひとりで何十年も続けたんですよね? 今じゃ、というより人間の体力的に考えられないですよ!
マスター 3時で終わったことはあんまりない。4時半とか5時でもまだお客さんがいますから。
それで終わったら家に帰って・・・。
マスター 帰ったらまず最初に前の日に持たされた昼の弁当ば食べて、(用意されていた)夜の食事も食べてしまってからシャワーして着替えて、そしたら朝ごはん。それで朝の7時にはタクシーが迎えに来てますから。嫁さんは、あんた大概にしなっせえって。
そりゃ心配になりますよ(笑)!
マスター うちの嫁さんは10分でもよかけんちょっと寝んと倒れるって言ったけど、元気だけんそこは心配しなくてよかって。なんであれだけ食べられたかっていうと、珈琲です。胃の消化や働きをよくするから。

噂によるとマスターはご自分で淹れた珈琲と白湯以外の飲み物をいっさい口にしないらしいですね(笑)。
マスター 1日3〜40杯は飲んでます。オープンから50年は開店から閉店まで一度も座りませんでしたが、足ひとつむくんだこともありません。病院の先生方は、「まあなんでだろうか」と(笑)。50万円のお茶でも珈琲には勝ちません。
89歳にしてこのツヤツヤのお肌が、何より「アロー」の珈琲のパワーを物語っていますが、それにしてもすごすぎる・・・。だって元日も休まないんですよね?
マスター 元日は絶対やります。まだ休んだこと一度もない。
さらに噂によると、コロナ禍前まではオープンから50年以上で通算30日程度しか休まなかったらしいですが、家庭が心配になっちゃいますよ!
娘さん 父は慶事レベルでは休まないので、私が代理で挨拶に行ったこともあります。休むのは身内の弔事くらいだったかな。子供心に自営業はそういうものだと思っていましたので、おかしいと感じたことはありません。ただ、私も大人になってからは相当忙しい仕事に就いて3ヶ月無休で働きましたけど、ウチではそんな理屈は通用しなかったですね(笑)。こっちには30年休んでない人がいるわけだから。でも、お金のことで苦労したことはなかったです。

マスター 一度だけ2日続けて休んだのは、子供が小学6年生になったとき、どこにも連れて行っとらんということに気づいて、別府に連れて行ったくらい。
旅行も60年でそれ一度きりということですか?
マスター 旅行は大好きなんですよ。その大好きな旅行を殺して集中しているんです。そしたら逆に、わざわざ北海道、沖縄、海外から来てくれるようになった。そんなふうにわざわざ遠くからお客さんが来てくれたときに休んでいたら、どう思うかって。だからよく「暇なときは休んでね」って言われるけど、暇なときこそ来てくれる人に感謝せねばならん。自分の勝手で休むってことは全くせんですね。旅行は大好きですよ・・・。

どこか行きたいところはあるんですか?
マスター あっとですよ。いっぱい。でもまだ一箇所も行っとらんですよ。まだまだ、まだまだ、と言ってる間に動けんことになっちゃうといけんからって言われるんですけど、行かれんよって。
娘さん 数年前、うちの息子(マスターの孫)が鹿児島の学校に通っていたときに、新幹線に乗せて桜島を見せました。
近年は少しペースを落とされているようで、安心です(笑)。しかし他に趣味とかはなかったんですか?
マスター もう今はできませんが、昔は10年ほど野球チームばつくってました。店のお客さんたちと。
ん?野球っていつやるんですか?
マスター 開店前に。熊本には早起き野球っていうのがあるんですよ。
・・・それは早起きとは言うのかな(笑)。いや〜、もはやマスターは超人ですね! 仕事に飽きたりすることはなかったですか?
マスター あのですね。1日1日、全部違うんですよ。毎日違います。なんで生きとって元気にしとるのに、休まないかんのか。なんでお客様ば相手にする仕事している人が休まないかんのか。1日休んだら3日遅れる。だからつくる。なんでですかって? そりゃ自分で考えなん。なんでもかんでも全部人に聞こうって思うとっとが今の日本。恵まれすぎて考える力がなくなっとるけん、日本人が今の日本ばダメにしとる。
当たり前のことを
せんのが八井巌です


「アロー」の経営はずっと順調だったんですか?
マスター まあまあですね。
今や世界中からマスターの珈琲をめざして来るお客さんがいるわけだし、1杯600円(税込)は安すぎるというか、もっとグッと値上げしてもいいんじゃないでしょうか? 2000円、3000円だっていけると思いますよ! だって他にないんだから。
マスター 一番最初は70円です。なんで100円とらんかってみんなに言われました。最近東京から来る人は、なんで1500円とらんかって。そう言ってもらうことはありがたいですけど、高くていいのは当たり前。当たり前のことはせんのが私ですから。それはなんでかって、1杯より2杯。2杯より3杯。飲めば飲むほど健康的になるけん、この値段にしているんです。


実際、何杯も飲みたくなりますよね。
マスター 自分で毎日何十杯も飲んでるから、わかるわけですよ。今はいっぱい飲むお客さんも多いから、「アローさんが一番儲かるばい?」なんて聞かれると、私は「はい、儲かりますよ」って答えるんです。その人はお金のことだと思ってるけど、違う。私は人に儲かっているんです。
〝人に儲かる〟って最高だなあ! 確かに「アロー」のお客さんは素敵な方ばかりですよね。さっき来られたお客さんも3杯目ですが、長いこと通われているんですか?
常連のお客さん ぼくは小さい頃に親に連れてこられて以来、毎日通ってます。

ま、毎日?
マスター この方は毎日朝から3杯飲んでいかれる。前は十何杯も飲んでいかれた。ほら、もう一杯飲んでいかんね。
う〜ん、他の喫茶店とは全く概念が違いますね・・・。
女性のお客さん ・・・すみません。これ、珈琲ですか? すごく透明。
マスター はい、透明です。心が濁っとっと人には濁って見える。
女性のお客さん スタバで飲むのと全然違いますね。美味しい。
マスター うちの珈琲は砂糖やミルクを入れて飲むもんじゃなかとですよ。砂糖やミルクを入れると酸性になる。それには不賛成(酸性)。
女性のお客さん 澄み切ってて、何も入れてないのに甘いです。
マスター 甘いでしょ? そういうこともアルカイ(アルカリ)。
女性にはより優しいんですね(笑)。
引退する予定はありますか?




「アロー」で使われているコーヒーカップは天草市の歴史ある窯元「水の平焼」。コーヒーカップはつくらないというこだわりをもっていた先代に、無理を言って焼いてもらったのだとか。現在ではこの色味はなかなか出せない。
マスターのところには、大きな会社からチェーン展開したいとか、インスタント珈琲をつくりたいとか、ビジネスの依頼は来たりしないんですか?
マスター 言われたことはあります。
大きな会社と組めばお金をたくさんもらえますよね?
マスター ものづくりは、お金を出せばいいものができるっちゅうことはないです。バブルが始まるだいぶ前、本当に毎日東京から来られたお金持ちの方がいました。銀座であんたが好きな場所に店ばつくってやるけん、東京に出てこいって。でも、私の体はひとつしかなかけん、店ばふたつまわるわけにはいきませんから、こっちに来てくださいって。
お金持ちになりたいっていう価値観ではないんですね。お弟子さんはとらないんですか?
マスター いっぱい申し込みは来ます。でもいっぺん入れたら全然使えんし、大切なカップを割るからそれ以来断ってます。
マスターのやり方は誰にも真似できませんしね(笑)。てことは、この味は一代限りということなんですかね・・・。
娘さん 私も弟も店を継ぎませんでしたし、父も「アロー」は一代で終わりにする方針です。ただありがたいことに、この珈琲じゃないとダメだという方が全国におられる。それならばせめて豆だけでも流通して残せるようにしたほうがよいのでは、ということで「アロー」のホームページをつくったんです。熊本地震で店を開けられなくなったときに、全く連絡が取れなくなって困っていた方も多かったですから。でも、父はあんまりいい顔をしていないんですが(苦笑)。

ホームページで豆の販売をされているのは、そういうことだったんですね! 当然水も腕も違うし同じ味にはなりませんが、東京在住のファンとしてはとても嬉しいことです。
娘さん 今まで父は、店で飲んだことのない人に味を勘違いさせてしまう可能性があるからということで、豆の販売を嫌がってきたんです。なのでご自宅で飲む味は、本来とは違う味だよ、ということをわかった上で召し上がっていただければと。ホームページには他にもいろんなビジネスのお申し込みを頂くのですが、だいたいお断りしています。
マスター 生活ができたらいいんです。
マスターはついこの最近89歳になられたそうですが、引退などは視野に入れておられるんですか?
マスター 歳ばっか数えてるけん進歩しないんです。まだまだ先があるとよ。
この人生は珈琲に捧げたということですか?
マスター ・・・なんだろうね。珈琲は世界共通だから、やりがいがあるんですね。毎日、これでよかっちゅうことはありません。珈琲は生き物。死んだ珈琲ば出したらダメです。

これからの夢とか目標ってあるんですか?
マスター 目標ですか? 私の目標はあと40年です。
え〜と、その頃マスターは129歳ということになりますが・・・(笑)。
マスター ひとりで100年続けたお店はどこにもなかでしょ? そうなったら世界でナンバーワン。
創業100年はあっても、ひとりで100年はなかです(笑)。
マスター いつまでいけるかわからないけど、手の届かんところに目標ばつくっておかないと。手の届きそうなところにすると、その手前で終わってしまうでしょう?


- 珈琲アロー
住所/熊本県熊本市中央区花畑町10-10
営業時間/11:00~19:00(月曜〜土曜・祝日)、12:00〜19:00(日曜)
年中無休
※営業時間は2025年5月現在の情報です。